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人造人間戦車の機密(じんぞうにんげんせんしゃのきみつ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 17:22:02  点击:  切换到繁體中文



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 有頂天うちょうてんになって、“人造人間戦車”の設計図を押しいただいて、三拝九拝しているのは、珍らしや醤買石しょうかいせきであった。
 醤は、サロン一つの赤裸あかはだかであった。くびのところに、からからんと鳴るものがあった。それはこの土地に今大流行の、けだものきばを集め、穴を明けて、純綿じゅんめんひもを通した頸飾くびかざりであった。醤は、このからからんという音を聞くたびに、寒山寺かんざんじのさわやかなる秋の夕暮を想い出すそうである。――なにしろ、ここは、人跡じんせきまれなる濠洲ごうしゅうの砂漠の真只中まっただなかである。詰襟つめえりの服なんか、とても苦しくて、着ていられなかった。
 この砂漠に、醤麾下きかの最後の百万名の手勢てぜいが、炎天下えんてんかに色あげをされつつ、粛々しゅくしゅくとして陣を張っているのであった。
 これは余談よだんわたるが、彼れ醤は、日本軍のため、重慶じゅうけいを追われ、成都せいとにいられなくなり、昆明こんめいではクーデターが起り、遂に数奇すうききわめた一生をそこで終るかと思われたが、最後の手段として、某所ぼうしょに於て、英国政権に泣きつき、その結果、或る交換条件により、醤およびその麾下は、海を渡り、赤道を越え、遥かにこの南半球の濠洲のサンデー砂漠地帯の一区劃くかく移駐いちゅうすることを許された次第しだいであった。
 ここでは、熱砂ねっさは舞い、火喰ひくい鳥は走り、カンガルーは飛び、先住民族たる原地人は、幅の広い鼻の下に白い骨を横に突き刺して附近に出没しゅつぼつし、そのたびに、青竜刀せいりゅうとうがなくなったり、取っておきの老酒ラオチューかめが姿を消したり、つらはちの苦難つづきであったが、しかもなお彼は抗日精神こうにちせいしんに燃え、この広大なる濠洲の土の下に埋没まいぼつしている鉱物資源を掘り出し、重工業をさかんにし、大機械化兵団を再建してもう一度、中国大陸へ引返し、日本軍と戦いをまじえたい決意だった。それからこっちへ十年、遂にこの砂漠の一劃に、十年計画の重工業地帯が完成したのを機に、密使みっし油蹈天ゆうとうてんをはるばる上海シャンハイつかわして、金博士の最新発明になる“人造人間戦車”の設計図を胡魔化ごまかしに行かせたのであった。
 今や工学士油蹈天は、大任たいにんはたして、めでたくこの砂漠へ帰ってきたのであった。醤の喜びは、察するに余りある次第であった。
「おい、油学士。見れば見るほどすばらしい製図ではないか」
 醤は、どうめてよいか分らないから、製図の見事なところを褒めることにした。
「はい。それだけに、私の苦心のったことと申したら、主席によろしくお察し願いたい」
「それはよろしく察して居る。褒美ほうびには、何をとらせようか。カンガルーの燻製はどうだ」
「いや、カンガルーは動物園のようなにおいがしていけません。――いや、それはともかく、想像していた以上に、これは実に立派にひかれた製図でございますが、更にその内容に至っては、正に世界無比の強力兵器だと申してよろしいと存じます」
「それで、わしには鳥渡ちょっと分らんところもあるから、お前、この図について、報告せよ。一体、“人造人間戦車”とは、どんなものか」
 とにかく御大将おんたいしょうともあれば、威厳いげんをそこなわないことには、秘術を心得て居る。
「はは。そもそも金博士の発明になる人造人間戦車とは……」
 油学士は、前後左右、それに頭の上を見渡し、砂漠の真中の一本のユーカリじゅの下には、主席と彼との二人の外、誰もいないことを確かめた上で、
「……人造人間戦車とは、ソノ……」
「早くいえ。気をもたせるな。褒美は、なんでも望みをかなえさせるぞ」
「はい、ありがとうございます。さて、その人造人間戦車とは、実に、人造人間にして、且つ又、戦車であるのであります」
には、さっぱり意味が分らん」
「つまり、ソノ金博士の申しまするには、ここに百人から成る人造人間の一隊がある」
「ふん。人造人間隊がねえ」
「この人造人間隊が、隊伍を組んで、粛々前進してまいります。お分りでしょうな」
「人造人間隊の進軍だね」
「はい。このままで放って置けば何日何時間たっても、遂に人造人間隊でございますが、必要に応じて、司令部より、極秘ごくひの強力電波をさっと放射いたしますと、これがたちまち戦車となります」
「そこが、どうも難解だ。極秘の強力電波を放射すると、なぜ人造人間隊が戦車となるのか。お前の話を黙って聞いていると、まるで狐狸こりたぐいが一変して嬋娟せんけんたる美女にけるのと同じように聞える。まさかお前は、金博士から妖術ようじゅつを教わってきたのではあるまい」
 醤主席の言葉は、油学士の自尊心を十二分に傷つけた。
「どうもそれはけしからんおおせです。かりそめにも、科学と技術とをもっておつかえする油学士であります。そんな妖術などを、誰が……」
「ぷんぷん怒るのは後にして、説明をしたがいいじゃないか。お前は、すぐ腹を立てるから、立身出世りっしんしゅっせが遅いのじゃ」
 主席に、一本きめつけられ、油学士は、はっと吾れにかえったようである。
「はっ、これは恐縮きょうしゅく。で、その秘術は、かようでございます。只今申した極秘の電波を人造人間隊にかけますと、その人造人間隊は、たちまちソノー、主席はフットボールを御覧になったことがございますか」
「余計なごましはゆるさん」
「ごま化しではございません。フットボール競技に於て、さっとプレーヤーが、さっとスクラムを組みますが、つまりあれと同じように、人造人間が、たちまちスクラムを組むのでございます。そしてたちまち人造人間のスクラムによって、一台の戦車が組立てられまして、こいつが、轟々ごうごうと人造人間製のキャタピラをひびかせて前進を始めます。いかがでございますか。これでもお気に召しませんか」

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