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伊勢之巻(いせのまき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 12:03:27  点击:  切换到繁體中文


「しかし、土地にも因るだろうが、奥州の原か、飛騨ひだの山で見た日には、気絶をしないじゃ済むまいけれど、伊勢というだけに、何しろ、電信柱に附着くッつけた、ペンキぬりの広告まで、土佐絵を見るような心持のする国だから、赤い唐縮緬とうちりめんを着た姐さんでも、京人形ぐらいには美しく見える。こっちへ来るというので道中も余所よそとは違って、あの、長良川、揖斐川いびがわ、木曾川の、どんよりと三条みすじ並んだ上を、晩方通ったが、水が油のようだから、汽車の音もしないまでに、かささぎの橋をすべって銀河あまのがわを渡ったと思った、それからというものは、夜にってこの伊勢路へかかるのが、何か、雲の上の国へでも入るようだったもの、どうして、あの人形に、心持を悪くしてなるものか。」
「これは、旦那様だんなさまお世辞のい、土地をめられまして何より嬉しゅうござります。で何でござりまするか、一刻も早く御参詣ごさんけいを遊ばそう思召おぼしめしで、ここらまで乗切っていらっしゃいました?」
「そういうわけでもないが、伊勢音頭を見物するつもりもなく、古市より相の山、第一名がいではないか、あいの山。」
 客は何思いけん手をほおにあてて、片手で弱々と胸をいだいたが、
「おばあさん、昔から聞馴染ききなじみの、お杉お玉というのは今でもあるのか。」
「それはござりますよ。ついこの前途さきをたらたらと上りました、道で申せばまず峠のような処に観世物みせものの小屋がけになって、やっぱり紅白粉べにおしろいをつけましたのが、三味線さみせんでお鳥目ちょうもくを受けるのでござります、それよりは旦那様、前方さきに行って御覧じゃりまし、川原に立っておりますが、三十人、五十人、橋を通行ゆききのお方から、おあしつぶてを投げて頂いて、手ン手に長棹ながざおさきへ網を張りましたので、宙で受け留めまするが、秋口蜻蛉とんぼの飛びますようでござります。橋のたもとには、女房達が、ずらりと大地に並びまして、一文二文に両換りょうがえをいたします。さあ、この橋が宇治橋と申しまして、内宮様ないぐうさまへ入口でござりまする。川は御存じの五十鈴川いすずがわ、山は神路山かみじやま。その姿の優しいこと、気高いこと、尊いこと、清いこと、この水に向うて立ちますと、人膚ひとはだ背後うしろから皮をとおして透いて見えます位、急にも流れず、よどみもしませず、なみの立つ、瀬というものもござりませぬから、色も、あおくも見えず、白くも見えず、緑のふちにもなりませず、一様に、ほんの水色というのでござりましょ。
 渡りますと、それから三千年の杉の森、神代かみよから昼も薄暗い中を、ちらちらと流れまする五十鈴川を真中まんなかに、神路山がつつみまして、いつもしずかに、神風がここから吹きます、ここに白木造しろきづくりの尊いお宮がござりまする。」

       四

内宮ないぐうでいらっしゃいます。」
 婆々ばばを挙げて白髪の額に頂き、
「何事のおわしますかは知らねども、かたじけなさに涙こぼるる、自然ひとりでつむりが下りまする。お帰りには二見ふたみヶ浦、これは申上げるまでもござりませぬ、五十鈴川の末、向うの岸、こっちの岸、枝の垂れた根上り松にもやいまして、そこへ参る船もござります。船頭たちがなぜ素袍すおうを着て、立烏帽子たてえぼしかぶっていないと思うような、尊い川もござりまする、女のきますくるまもござります、ちょうど明日は旧の元日。初日の出、」
 いいかけて急にひざを。
「おお、そういえば旦那様だんなさま、お宿はどうなさります思召おぼしめし
 成程、おっしゃりました名のとおり、あなた相の山までいらっしゃいましたが、この前方さきへおいでなさりましても、い宿はござりません。後方あと古市ふるいちでござりませんと、旦那様方がお泊りになりまする旅籠はござりませんが、何にいたしました処で、もし、ここのことでござりまする、必ず必ずおき立て申しますではないのでござりまするけれども、お早く遊ばしませぬと、おとまりが難しゅうござりますので。
 はい、いつもまあこうやって、大神宮様のおかげで、繁昌はんじょうをいたしまするが、旧の大晦日おおみそかと申しますと、諸国の講中こうじゅう道者どうじゃ行者ぎょうじゃしゅ、京、大阪は申すに及びませぬ、夜一夜、古市でおこもりをいたしまして、元朝、宇治橋を渡りまして、貴客あなた、五十鈴川で嗽手水うがいちょうず、神路山を右に見て、杉の樹立こだちの中を出て、御廟おたまやの前でほのぼのとしらみますという、それから二見ヶ浦へ初日の出を拝みに廻られまする、大層な人数。
 旦那様お通りの時分には、玉ころがしの店、女郎屋のかどなどは軒並のきなみ戸がいておりましてございましょうけれども、旅籠屋は大抵戸を閉めておりましたことと存じまする。
 どの家も一杯で、客が受け切れませんのでござります。」
 婆々はひしひし、大手の木戸に責め寄せたが、
「しかし貴客あなた、三人、五人こぼれますのは、旅籠はたごやでも承知のこと、相宿でも間に合いませぬから、廊下のはずれのかこいだの、数寄すき四阿あずまやだの、主人あるじ住居すまいなどで受けるでござりますよ。」
 と搦手からめてを明けて落ちよというなり。
 けれども何の張合もなかった、客は別に騒ぎもせず、さればって聞棄ききずてにもせず、なん機会きっかけもないのに、小形の銀の懐中時計をぱちりと開けて見て、無雑作に突込つッこんで、
「お婆さん、勘定だ。」
「はい、あなた、もし御飯おまんまはいかがでござります。」
 客は仰向あおむいて、あらたに婆々の顔を見て莞爾かんじとした。
「いや、実は余り欲しくない。」
「まあ、ソレ御覧ごろうじまし、それだのに、いかなこッても、酢蛸すだこあがりたいなぞとおっしゃって、夜遊びをなすって、とんだ若様でござります。どうして婆々が家の一膳飯いちぜんめしがお口に合いますものでござります。ほほほほ。」
「時に、三由屋みよしやという旅籠はあるね。」
「ええ、古市一番の旧家で、第一等の宿屋でござります。それでも、今夜あたりは大層なおひとでござりましょ。あれこれとおっしゃっても、まず古市では三由屋で、その上に講元こうもとのことでござりまするから、お客は上中下とも一杯でござります。」
「それは構わん。」といって客は細く組違えていた膝を割って、二ツばかり靴の爪尖つまさきを踏んで居直った。
「まあ、何ということでござります、それでは気をむではなかったに、先へ誰方どなたぞお美しいのがいらしって、三由屋でお待受けなのでござりますね。わざと迷児まいごになんぞおなり遊ばして、うござります、翌日あすは暗い内から婆々が店頭みせさきに張番をして、芸妓げいこさんとでも腕車くるまで通って御覧じゃい、おのぞみの蛸の足を放りつけて上げますに。」と煙草きせるを下へ、手ですくって、土間から戸外そとへ、……や……ちょっと投げた。トタンに相の山から戻腕車もどりぐるま、店さきを通りかかって、軒にはたはたと鳴る旗に、フトかじを持ったまま仰いでとまる。
車夫くるまや。」
「はい。」となまめかしい声、婦人おんなが、看板をつけたのであった、古市組合。

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