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伊勢之巻(いせのまき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 12:03:27  点击:  切换到繁體中文



       七

「お気の毒ながらと申して、お宿を断らせました処、つれが来て泊っている。ともかくも明けい、とおっしゃりますについて、あの、入口の、たいてい原ほどはござります、板の間が、あなた様、道者衆どうじゃしゅう充満いっぱいで、足踏あしぶみも出来ません処から、かまちへかけさせ申して、帳場の火鉢を差上げましたような次第で、それから貴女様あなたさまがお泊りのはず、立花が来たと伝えくれい、という事でござりまして。
 早速お通し申しましょうかと存じましたなれども、こちら様はお一方ひとかた、御婦人でいらっしゃいます事ゆえ念のために、わたくしお伺いに出ました儀で、直ぐにという御意にござりましたで、引返ひっかえして、御案内。ええ、唯今ただいまの女が、廊下をお連れ申したでござります。
 女が、貴女様このお部屋へ、その立花様というのがお入り遊ばしたのを見て、取って返しましたで、折返して、お支度の程を伺わせに唯今差出しました処、何か、さような者は一向お見えがないと、こうおっしゃいます。またお座敷には、奥方様のほか誰方どなたもおいでがないと、目を丸くして申しますので、何を寝惚ねぼけおるぞ、てまえが薄眠い顔をしておるで、お遊びなされたであろ、なぞと叱言こごとを申しましたが、女いいまするには、なかなか、洒落しゃれを遊ばす御様子ではないと、真顔でござりますについて、ええ、何より証拠、土間を見ましてございます。」
 いいかけて番頭、片手敷居越に乗出して、
「トその時、おあがりになったばかりのお穿物はきものが見えませぬ、洋服でおあんなさいましたで、靴にござりますな。
 さあ、居合せましたもの総立そうだちになって、床下までのぞきましたが、どれも札をつけて預りました穿物ばかり、それらしいのもござりませぬで、希有けうじゃと申出しますと、いや案内に立った唯今の女は、見す見す廊下をさきへ立って参ったというて、あおくなって震えまするわ。
 いここわがりましてこちらへよう伺えぬと申しますので、手前駈出かけだして参じましたが、いえ、もし全くこちら様へは誰方もおいでなさりませぬか。」と、おだやかならぬ気色である。
 夫人、するりと膝をずらして、後へ身を引き、座蒲団の外へ手の指をそらしてくと、膝をすべった桃色の絹のはんけちが、つま折端おりはしへはらりとこぼれた。
いやだよ、串戯じょうだんではないよ、穿物がないんだって。」
「御意にござりまする。」
「おかしいねえ。」と眉をひそめた。夫人の顔は、コオトをかけた衣裄いこうの中に眉暗く、洋燈ランプの光のくまあるあたりへ、魔のかげがさしたよう、円髷まげの高いのも艶々つやつやとして、そこに人が居そうな気勢けはいである。
 畳から、手をもぎ放すがごとくにして、身を開いて番頭、固くなって一呼吸ひといきつき、
「で、ござりまするなあ。」
「お前、そういえば先刻さっき、ああいって来たもんだから、今にその人が見えるだろうと、火鉢の火なんぞ、つッついていると、何なの、しばらくすると、今のねえさんが、ばたばた来たの。次ののそこへちらりと姿を見せたっけ、私はお客が来たと思って、ことばをかけようとする内に、直ぐせわしそうに出て行って、今度来た時には、突然いきなり、お支度はって、お聞きだから、変だと思って、誰も来やしないものを。」とさもいぶかしげに、番頭の顔をじっと見ていう。
 いよいよ、きょとつき、
「はてさて、いやどうも何でござりまして、ええ、廊下を急足いそぎあしにすたすたお通んなすったと申して、成程、跫音あしおとがしなかったなぞと、女は申しますが、それは早や、気のせいでござりましょう。なにしろ早足で廊下を通りなすったには相違ござりませぬ、さきへ立って参りました女が、せいせい呼吸いきを切って駈けまして、それでどうかすると、背後うしろから、そのお客の身体からだが、ぴったり附着くッつきそうになりまする。」
 番頭は気がさしたか、そっと振返って背後うしろを見た、かまの湯はたぎっているが、ちり一つ見当らず、こういう折には、余りに広く、且つ余りに綺麗きれいであった。
「それがために二三度、足が留まりましたそうにござりまして。」

       八

「中にはその立花様とおっしゃるのが、剽軽ひょうきんな方で、一番ひとつ三由屋をお担ぎなさるのではないかと、申すものもござりまするが、この寒いに、戸外おもてからお入りなさったきり、洒落しゃれにかくれんぼを遊ばす陽気ではござりません。殊に靴までお隠しなさりますなぞは、ちと手重ておも過ぎまするで、どうも変でござりまするが、お年紀頃としごろ御容子ごようすは、先刻さっき申上げましたので、その方に相違ござりませぬか、お綺麗な、品のい、面長おもながな。」
「全く、そう。」
「では、その方は、さような御串戯ごじょうだんをなさる御人体ごじんていでござりますか、立花様とおっしゃるのは。」
「いいえ、大人おとなしい、沢山たんと口もきかない人、そして病人なの。」
 そりゃこそと番頭。
「ええ。」
「もう、大したことはないんだけれど、一時ひとしきりは大病でね、内の病院に入っていたんです。東京で私が姉妹きょうだいのようにした、さるお嬢さんの従兄子いとこでね、あの美術、何、彫刻師ほりものしなの。国々を修行に歩行あるいている内、養老の滝を見た帰りがけに煩って、宅で養生をしたんです。二月ばかり前から、大層、よくなったには、よくなったんだけれど、まだ十分でないッていうのに、かないでまた旅へ出掛けたの。
 私が今日こちらへ泊って、翌朝あしたまいりをするッてことは、かねがね話をしていたから、大方旅行先たびさきから落合って来たことと思ったのに、まあ、お前、どうしたというのだろうね。」
「はッ。」
 というと肩をすぼめてこうべを垂れ、
「これは、もし、旅で御病気かも知れませぬ。いえ、別に、貴女様あなたさま身体からだ仔細しさいはござりませぬが、よくそうしたことがあるものにござります。はい、何、もうお見上げ申しましたばかりでも、奥方様、お身のまわりへは、寒い風だとて寄ることではござりませぬが、御帰宅の後はおこころにかけられて、さきざきお尋ね遊ばしてお上げなされまし、これはその立花様とおっしゃる方が、親御、御兄弟より貴女様を便りに遊ばしていらっしゃるに相違ござりませぬ。」
 夫人はこれを聞くうちに、差俯向さしうつむいて、両方引合せた袖口そでくちの、襦袢じゅばんの花に見惚みとれるがごとく、打傾いて伏目ふしめでいた。しばらくして[#「しばらくして」は底本では「しばらしくて」]、さも身に染みたように、肩を震わすと、後毛おくれげがまたはらはら。
「寒くなった、私、もう寝るわ。」
御寝ぎょしなります、へい、唯今ただいま女中おんなを寄越しまして、お枕頭まくらもともまた、」
「いいえ、煙草たばこは飲まない、お火なんか沢山。」
「でも、その、」
「あの、しかしね、間違えて外の座敷へでも行っていらっしゃりはしないか、気をつけておくれ。」
「それはもう、きっと、まだ、方々見させてさえござりまする。」
「そうかい、此家うちは広いから、また迷児まいごにでもなってると悪い、可愛い坊ちゃんなんだから。」とぴたりと帯に手を当てると、帯しめの金金具きんかなぐが、指の中でパチリと鳴る。
 先刻さっきから、ぞくぞくして、ちりけ元は水のような老番頭、思いの外、女客の恐れぬを見て、この分なら、お次へ四天王にも及ぶまいと、
「ええ、さようならばおしずかに。」
「ああ、御苦労でした。」と、いってすッと立つ、汽車の中からそのままの下じめがゆるんだか、絹足袋の先へ長襦袢、右のつまがぞろりと落ちた。
「お手水ちょうず。」
「いいえ、寝るの。」
「はッ。」と、いうと、腰を上げざまにふすまを一枚、直ぐに縁側へすべって出ると、呼吸いきこらして二人ばかり居た、こわいもの見たさのてあい、ばたり、ソッと退気勢けはい
「や。」という番頭の声に連れて、足もすそともえに入乱るるかのごとく、廊下を彼方あなたへ、隔ってまた跫音あしおと、次第に跫音。このしおに、そこら中の人声をさらえて退いて、はてはるか戸外おもて二階の突外とっぱずれの角あたりと覚しかった、三味線さみせんがハタとんだ。
 聞澄ききすまして、里見夫人、もすそを前へさばこうとすると、うっかりした褄がかかって、引留められたようによろめいたが、衣裄いこうに手をかけ、四辺あたり※(「目+句」、第4水準2-81-91)みまわし、向うの押入をじっと見る、まぶたさっと薄紅梅。

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