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人魚の祠(にんぎょのほこら)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:16:59  点击:  切换到繁體中文



        四

わたしくらんだんでせうか、をんなまたゝきをしません。五ふん一時いつときと、此方こつち呼吸いきをもめてますあひだ――で、あま調そろつた顏容かほだちといひ、はたしてこれ白像彩塑はくざうさいそで、ことか、仔細しさいあつて、べう本尊ほんぞんなのであらう、とおもつたのです。
 ゆかした……板縁いたえんうらところで、がさ/\がさ/\とおと發出しだした……彼方あつちへ、此方こつちへ、ねずみが、ものでも引摺ひきずるやうで、ゆかひゞく、とおとが、へんに、うへつてるわたしあしうらくすぐるとつたかたちで、むづがゆくつてたまらないので、もさ/\身體からだゆすりました。――本尊ほんぞんは、まだまたゝきもしなかつた。――うちに、みぎおとが、かべでもぢるか、這上はひあがつたらしくおもふと、寢臺ねだいあし片隅かたすみ羽目はめやぶれたところがある。透間すきまいたちがちよろりとのぞくやうに、茶色ちやいろ偏平ひらつたつらしたとうかゞはれるのが、もぞり、がさりとすこしづゝはひつて、ばさ/\とる、とおほきさやがて三俵法師さんだらぼふしかたちたもの、だらけの凝團かたまりあしも、かほるのぢやない。成程なるほどねずみでもなかもぐつてるのでせう。
 其奴そいつが、がさ/\と寢臺ねだいしたはひつて、ゆかうへをずる/\と引摺ひきずつたとると、をんな掻卷かいまきからうでしろいて、わたしはうへぐたりとげた。寢亂ねみだれてちゝえる。それ片手かたてかくしたけれども、あしのあたりをふるはすと、あゝ、とつて兩方りやうはうくうつかむとすそげて、弓形ゆみなりらして、掻卷かいまきて、ころがるやうにふすまけた。……
 わたし飛出とびだした……
 だんちるやうにりたときくろ狐格子きつねがうし背後うしろにして、をんな斜違はすつかひ其處そこつたが、足許あしもとに、やあのむくぢやらの三俵法師さんだらぼふしだ。
 しろくびすげました、階段かいだんすべりる、と、あとから、ころ/\ところげて附着くツつく。さあ、それからは、宛然さながら人魂ひとだまつきものがしたやうに、かつあかつて、くさなか彼方あつちへ、此方こつちへ、たゞ、伊達卷だてまきについたばかりのしどけないなまめかしい寢着ねまきをんな※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)おひまはす。をんなはあとびつしやりをする、脊筋せすぢよぢらす。三俵法師さんだらぼふしは、もすそにまつはる、かゝとめる、刎上はねあがる、身震みぶるひする。
 やがて、ぬまふち追迫おひせまられる、とあしかふ這上はひあが三俵法師さんだらぼふしに、わな/\身悶みもだえするしろあしが、あの、釣竿つりざをつた三にんのやうに、ちら/\とちういたが、するりとおとして、おびすべると、ものがげてくさちた。
しづんだふね――」と、おもはずわたしこゑけた。ひましに、陰氣いんき水音みづおとが、だぶん、とひゞいた……
 しかし、綺麗きれいおよいでく。うつくしにく脊筋せすぢけて左右さいうひらみづ姿すがたは、かるうすものさばくやうです。はだしろこと、あの合歡花ねむのはなをぼかしたいろなのは、かねときのために用意よういされたのかとおもふほどでした。
 動止うごきやんだ赤茶あかちやけた三俵法師さんだらぼふしが、わたしまへに、惰力だりよくで、毛筋けすぢを、ざわ/\とざわつかせて、うツぷうツぷあへいでる。
 るとおどろいた。ものは棕櫚しゆろ引束ひツつかねたに相違さうゐはありません。が、ひと途端とたんに、ぱちぱちまめおとがして、ばら/\と飛着とびついた、棕櫚しゆろあかいのは、幾千萬いくせんまんともかずれないのみ集團かたまりであつたのです。
 や、兩脚りやうあしが、むづ/\、脊筋せすぢがぴち/\、頸首えりくびへぴちんとる、わたし七顛八倒しつてんはつたうして身體からだつて振飛ふりとばした。
 なんと、棕櫚しゆろのみところに、一人ひとりちひさい、めじりほゝ垂下たれさがつた、青膨あをぶくれの、土袋どぶつで、肥張でつぷり五十ごじふ恰好かつかうの、頤鬚あごひげはやした、をとこつてるぢやありませんか。なにものともれない。越中褌ゑつちうふんどしふ……あいつひとつで、眞裸まつぱだかきたなけつです。
 をんなぬまおよいて、はなしげりにかくれました。
 が、姿すがたが、みづながれて、やなぎみどり姿見すがたみにして、ぽつとうつつたやうに、ひとかげらしいものが、みづむかうに、きしやなぎ薄墨色うすずみいろつてる……あるひまた……此處こゝ土袋どぶつ同一おなじやうなをとこが、其處そこへもて、白身はくしん婦人をんなるのかもれません。
 わたし一人ひとりでせうね……
(や、てい。)
 青膨あをぶくれが、たんからんだ、ぶやけたこゑして、行掛ゆきかゝつたわたしめた……
もれえたいものがあるで、ぢきぢやぞ。)と、くびをぐたりとりながら、横柄わうへいふ。……なんと、兩足りやうあしから、下腹したばらけて、棕櫚しゆろのみが、うよ/\ぞろ/\……赤蟻あかありれつつくつてる……わたし立窘たちすくみました。
 ひら/\、と夕空ゆふぞらくもおよぐやうにやなぎから舞上まひあがつた、あゝ、それ五位鷺ごゐさぎです。中島なかじまうへ舞上まひあがつた、とるとけてさつおとした。
(ひい。)とをんなこゑさぎ舞上まひあがりました。つばさかぜに、はなのさら/\とみだるゝのが、をんな手足てあしうねらして、※(「足へん+宛」、第3水準1-92-36)もがくに宛然さながらである。
 いまかんがへると、それが矢張やつぱり、あの先刻さつきだつたかもれません。おなかをりかぜのやうに吹亂ふきみだれたはななかへ、ゆき姿すがた素直まつすぐつた。が、なめらかなむねちゝしたに、ほしなるがごと一雫ひとしづく鮮紅からくれなゐいとみだして、はな眞赤まつかる、と淡紅うすべになみなかへ、しろ眞倒まつさかさまつてぬましづんだ。みぎはひろくするらしいしづかなみづいて、血汐ちしほ綿わたがすら/\とみどりいてたゞよながれる……
(あれをい、かたちぢやらうが、なんむかい。)
 ――わたしいきつて、かぶりると、
わからんかい、白痴たはけめが。)と、ドンとむねいて、突倒つきたふす。おもちからは、磐石ばんじやくであつた。
また……遣直やりなほしぢや。)とつぶやきながら、のみをぶらげると、わたし茫然ばうぜんとしたあひだに、のそのそ、と越中褌ゑつちうふんどしきうのあとのしりせて、そして、やがて、及腰およびごしほこら狐格子きつねがうしのぞくのがえた。
おくさんや、おくさんや――のみが、のみが――)
 とはらをだぶ/\、身悶みもだえをしつゝ、後退あとじさりにつた。、どしん、と尻餅しりもちをついた。が、あたまへ、棕櫚しゆろをずぼりとかぶる、とふくろふけたやうなかたちつて、のまゝ、べた/\とくさつて、えんした這込はひこんだ。――
 蝙蝠傘かうもりがさつゑにして、わたしがひよろ/\として立去たちさときぬまくらうございました。そしてなまぬるいあめ降出ふりだした……
おくさんや、おくさんや。)
 とつたが、土袋どぶつ細君さいくんださうです。土地とち豪農がうのう何某なにがしが、内證ないしよう逼迫ひつぱくした華族くわぞく令孃れいぢやう金子かねにかへてめとつたとひます。御殿ごてんづくりでかしづいた、が、姫君ひめぎみ可恐おそろしのみぎらひで、たゞぴきにも、よるひる悲鳴ひめいげる。かなしさに、別室べつしつねやつくつてふせいだけれども、ふせれない。で、はて亭主ていしゆが、のみけるためののみつて、棕櫚しゆろ全身ぜんしんまとつて、素裸すつぱだかで、寢室しんしつえんしたもぐもぐり、一夏ひとなつのうちに狂死くるひじにをした。――
(まだ、まよつてさつしやるかなう、二人ふたりとも――たびひとがの、あのわすぬまでは、おなこと度々たび/\ます。)
 旅籠屋はたごやでの談話はなしであつた。」
 工學士こうがくしけたして、
「……ほこらえんしたましたがね、……御存ごぞんじですか……異類いるゐ異形いぎやういしがね。」
 工學士こうがくしから音信おとづれして、あれは、乳香にうかうであらうとふ。





底本:「鏡花全集 巻十六」岩波書店
   1942(昭和17)年4月20日第1刷発行
   1987(昭和62)年12月3日第3刷発行
入力:馬野哲一
校正:鈴木厚司
2000年12月13日公開
2005年11月24日修正
青空文庫作成ファイル:
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●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • 「くの字点」は「/\」で、「濁点付きくの字点」は「/″\」で表しました。
  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。

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