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伯爵の釵(はくしゃくのかんざし)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:19:57  点击:  切换到繁體中文



       十二

 時を見、程を計って、紫玉は始め、実は法壇に立って、数万の群集を足許あしもとに低き波のごとく見下みおろしつつ、昨日きのう通った坂にさえ蟻の伝うに似て押覆おしかえ人数にんずを望みつつ、おもむろに雪のあぎとに結んだ紫のひもを解いて、結目むすびめを胸に、烏帽子を背に掛けた。
 それから伯爵の釵を抜いて、意気込んで一振り振ると、……黒髪のさっさばけたのが烏帽子の金に裏透いて、さながら金屏風きんびょうぶに名誉の絵師の、松風を墨で流したようで、雲も竜もそこから湧くか、とながめられた。――これだけは工夫した女優の所作で、手には白金プラチナ匕首あいくちのごとく輝いて、凄艶せいえん比類なき風情であった。
 さてその鸚鵡おうむを空にかざした。
 紫玉の※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはったには、たしかに天際の僻辺へきへんに、美女のに似た、白山は、白く清く映ったのである。
 毛筋ほどの雲も見えぬ。
 雨乞の雨は、いずれも後刻の事にして、そのまま壇をくだったらば無事だったろう。ところが、遠雷の音でも聞かすか、暗転にならなければ、舞台にれた女優だけに幕が切れない。紫玉は、しかし、目前まのあたり鯉魚りぎょの神異を見た、怪しき僧の暗示と讖言しんげんを信じたのであるから、今にも一片の雲は法衣の袖のように白山の眉に飜るであろうと信じて、しばしを待つを、法壇を二廻り三廻り緋の袴して輪に歩行あるいた。が、これは鎮守の神巫みこに似て、しかもなんば、という足どりで、少なからず威厳を損じた。
 群集の思わんほどもはばかられて、わきの下にと冷き汗を覚えたのこそ、天人の五衰ごすいのはじめとも言おう。
 気をかえてきっとなって、もの忘れした後見こうけんはげしくきっかけを渡すさまに、紫玉は虚空に向って伯爵の鸚鵡を投げた。が、あの玩具おもちゃの竹蜻蛉のように、晃々きらきらと高く舞った。
大神楽だいかぐら!」
 とわめいたのが第一番の半畳で。
 一人口火を切ったから堪らない。練馬大根と言う、おかめと喚く。雲の内侍ないじと呼ぶ、雨しょぼを踊れ、と怒鳴る。水の輪の拡がり、嵐の狂うごとく、聞くも堪えない讒謗罵詈ざんぼうばりいかずちのごとくどっと沸く。
 鎌倉殿は、船中において嚇怒かくどした。愛寵あいちょうせる女優のために群集の無礼を憤ったのかと思うと、――そうではない。この、好色の豪族は、はやく雨乞のしるしなしと見て取ると、日のさくの、短夜もはや半ばなりししゃ蚊帳かやうちを想い出した。……
 雨乞のためとて、精進潔斎させられたのであるから。
げ。」
 紫幕の船は、矢を射るように島へ走る。
 一度、駆下りようとした紫玉の緋裳ひもすそは、この船の激しく襲ったために、一度引留められたものである。
「…………」
 と喚く鎌倉殿の、何やら太い声に、最初、白丁はくちょうに豆烏帽子でからかさを担いだ宮奴みややっこは、島のなる幕の下をって、ヌイとつらを出した。
 すぐに此奴こいつが法壇へ飛上った、そのはやさ。
 紫玉がもはや、と思い切って池に飛ぼうとする処を、おさえて、そしていだ。
 女の身としてあらりょうか。
 あの、雪をつかねた白いものの、壇の上にひれ伏した、あわれなさまは、月を祭る供物に似て、非ず、旱魃かんばつの鬼一口の犠牲にえである。
 ヒイと声を揚げて弟子が二人、幕の内で、手放しにわっと泣いた。
 赤ら顔の大入道の、首抜きの浴衣の尻を、七のずまで引めくったのが、苦り切ったる顔して、つかつかと、きざはしを踏んで上った、金方きんかたか何ぞであろう、芝居もので。
 肩をむずと取ると、
「何だ、ざまは。小町やしずかじゃあるめえし、増長しやがるからだ。」
 手の裏かえす無情さは、足も手もぐたりとした、烈日に裂けかかる氷のような練絹ねりぎぬの、紫玉のふくよかな胸を、酒焼さかやけの胸に引掴ひッつかみ、毛脛けずねに挟んで、
「立たねえかい。」

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