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伯爵の釵(はくしゃくのかんざし)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:19:57  点击:  切换到繁體中文



       十

――水のすぐれ覚ゆるは、
西天竺せいてんじく白鷺池はくろち
じんじょうきょゆうにすみわたる、
昆明池こんめいちの水の色、
行末ゆくすえ久しくむとかや。

「お待ち。」
 紫玉は耳をすました。道の露芝、曲水の汀にして、さらさらと音するながれの底に、聞きも知らぬ三味線の、沈んだ、陰気な調子に合せて、かすかに唄う声がする。
「――坊さんではないかしら……」
 紫玉は胸がとどろいた。
 あの漂泊さすらいの芸人は、鯉魚の神秘をた紫玉の身には、もはや、うみ汁のごとく、つばよだれの臭い乞食坊主のみではなかったのである。
「……あの、三味線は、」
 夜陰のこんな場所で、もしや、と思う時、掻消かききえるように音がんで、ひたひたと小石をくぐって響く水は、忍ぶ跫音あしおとのように聞える。
 紫玉は立留まった。
 再び、名もきかぬ三味線の音が陰々として響くと、

――日本一にて候ぞと申しける。鎌倉殿ことごとしや、何処いずこにて舞いて日本一とは申しけるぞ。梶原申しけるは、一歳ひととせ百日のひでりの候いけるに、賀茂川かもがわ桂川かつらがわ水瀬みなせ切れて流れず、筒井の水も絶えて、国土の悩みにて候いけるに、――

 聞くものは耳を澄まして袖を合せたのである。

――有験うげんの高僧貴僧百人、神泉苑の池にて、仁王経にんのうきょうを講じ奉らば、八大竜王も慈現納受じげんのうじゅたれ給うべし、と申しければ、百人の高僧貴僧をしょうじ、仁王経を講ぜられしかども、そのしるしもなかりけり。またある人申しけるは、容顔美麗なる白拍子しらびょうしを、百人めして、――

「御坊様。」
 今は疑うべき心もせて、御坊様、と呼びつつ、紫玉が暗中をすかして、声するかたに、すがるように寄ると思うと、
を消せ。」
 と、びたが力ある声して言った。
提灯ちょうちんを……」
「は、」と、返事と息を、はッはッとはずませながら、一度消損けしそこねて、あわただしげに吹消した。玉野の手は震えていた。

――百人の白拍子をして舞わせられしに、九十九人舞いたりしに、その験もなかりけり。しずか一人舞いたりとても、竜神示現じげんあるべきか。内侍所ないしどころに召されて、ろくおもきものにて候にと申したりければ、とても人数ひとかずなれば、ただ舞わせよと仰せ下されければ、静が舞いたりけるに、しんむしょうの曲という白拍子を、――

 を消すと、あたりがかえって朦朧もうろうと、薄く鼠色にほのめく向うに、石の反橋そりばしの欄干に、僧形そうぎょうの墨の法衣ころも、灰色になって、うずくまるか、と視れば欄干に胡坐あぐらいて唄う。
 橋は心覚えのある石橋の巌組いわぐみである。気が着けば、あの、かくれ滝の音は遠くどうどうと鳴って、風のごとくに響くが、かすれるほどの糸のも乱れず、唇を合すばかりの唄も遮られず、嵐の下の虫の声。が、形は著しいものではない、胸をくしゃくしゃと折って、坊主頭を、がく、と俯向うつむけて唄うので、うなじいた転軫てんじんかかる手つきは、鬼が角をはじくと言わばいかめしい、むしろ黒猫が居て顔を洗うというのに適する。

――なから舞いたりしに、御輿みこしたけ愛宕山あたごやまかたより黒雲にわかに出来いできて、洛中らくちゅうにかかると見えければ、――

 と唄う。……紫玉は腰を折って地に低く居て、弟子は、その背後うしろしゃがんだ。

――八大竜王鳴渡りて、稲妻ひらめきしに、諸人目を驚かし、三日の洪水を流し、国土安穏なりければ、さてこそ静の舞に示現ありけるとて、日本一と宣旨をたまわりけると、承り候。――

 時に唄をめて黙った。
「太夫様。」
 余り尋常な、ものいいだったが、
「は、」と、呼吸いきをひいて答えた紫玉の、身動みじろぎに、帯がキと擦れて鳴ったほど、深く身に響いて聞いたのである。
癩坊主かったいぼうずが、ねだり言をうけごうて、千金の釵を棄てられた。その心操こころばえに感じて、些細ささいながら、礼心にと内証の事を申す。貴女あなた、雨乞をなさるがい。――天の時、地の利、人の和、まさしく時節じゃ。――ここの大池の中洲の島に、かりの法壇を設けて、雨を祈ると触れてな。……はかま練衣ねりぎぬ烏帽子えぼし狩衣かりぎぬ白拍子しらびょうしの姿がかろう。衆人めぐり見る中へ、その姿をあの島の柳の上へ高くあらわし、大空へ向って拝をされい。祭文さいもんにも歌にも及ばぬ。天竜、雲をり、らいを放ち、雨をみなぎらすは、明午を過ぎてさるの上刻に分豪ふんごうも相違ない。国境の山、赤く、黄に、峰岳みねたけを重ねてただれた奥に、白蓮の花、玉のたなそこほどに白くそびえたのは、四時しじに雪を頂いて幾万年の白山はくさんじゃ。貴女、時を計って、その鸚鵡おうむの釵を抜いて、山の其方そなたに向ってかざすを合図に、雲は竜のごとくいて出よう。――なおその上に、いか、名を挙げられい。……」

――賢人かしこびとの釣を垂れしは、
厳陵瀬げんりょうらいの河の水。
月影ながらもる夏は、
山田のかけひの水とかや。――……


 

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