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古狢(ふるむじな)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:33:44  点击:  切换到繁體中文


「それにね、首……顔がないんです。あの、冷いほど、真白まっしろな、乳も、腰も、手足も残して。……微塵みじんかれたんでしょう。血の池で、白魚がいたように、お藻代さんの、顔だの、頬だのが。
 堤防どてを離れた、電信のはりがねの上の、あの辺……崖の中途のしいの枝に、飛上った黒髪が――根をくるくると巻いて、さかさ真黒まっくろ小蓑こみのを掛けたようになって、それでも、優しい人ですから、すんなりと朝露に濡れていました。それでいて毛筋をつたわって、落ちるしずくが下へたまって、血だったそうです。」
「寒くなった。……出ようじゃないか。――ああ西日が当ると思ったら、向うの蕃椒とうがらしか。慌てている。が雨はあがった。」
 提灯なしに――二人は、歩行あるき出した。お町の顔の利くことは、いつの間にか、蓮根の中へ寄掛けて、傘が二本立掛けてあるのを振返って見たので知れる。
「……あすこに人が一人立っているね、縁台を少し離れて、手摺てすり寄掛よりかかって。」
「ええ、どしゃ降りの時、気がつきましたわ。私、おじさんの影法師かと思ったわ。――まだ麦酒ビイルがあったでしょう。あとで一口めしあがるなぞは、洒落しゃれてるわね。」
「何だ、いま泣いた烏がもう出て笑う、というのは、もうちと殊勝な、お人柄の事なんだぜ。私はまた、なぜだか、前刻さっきいった――八田――紺屋の干場の近くにうちのあった、その男のような気がしたよ。小学校以来。それだってくうな事過ぎるが、むかし懐かしさに、ここいら歩行あるかないとは限らない。――女づれだから、ちょっとことばを掛けかねたろう。……
 それだと、あすこで一杯やりかねない男だが、もうちと入組んだ事がある。――鹿落を日暮方出て此地ここへ来る夜汽車の中で、目の光る、陰気な若い人が真向まむこうに居てね。私と向い合うと、立掛けてあった鉄砲――あれは何とかいう猟銃さ――それを縦に取って、真鍮しんちゅうふたを、コツコツ開けたり、はめたりする。長い髪の毛を一振振りながら、(猟師と見えますか。)ニヤリと笑って、(フフン、世を忍ぶ――仮装ですよ。)と云ってね。袋から、血だらけな頬白ほおじろを、(受取ってくれたまえ。)――そういって、今度は銃を横へ向けて撃鉄うちがねをガチンと掛けるんだ。(麁葉そはだが、いかがです。)――貰いものじゃあるが葉巻を出すと、目を見据えて、(贅沢ぜいたくなものをやりますな、僕は、主義として、そういうものは用いないです。)またそういって、撃鉄をカチッとる。
 貰いものの葉巻を吹かすより、霰弾さんだんで鳥をばらす方が、よっぽど贅沢じゃないか、と思ったけれど、何しろ、木胴鉄胴きどうかねどうからくり胴鳴って通る飛団子、と一所に、隧道トンネルを幾つも抜けるんだからね。要するに仲蔵以前の定九郎だろう。
 そこで、小鳥の回向料えこうりょうを包んだのさ。
 十時四十分頃、二つさきの山の中の停車場へ下りた。が、別れしなに、たもとから名札を出して、寄越よこそうとして、また目を光らして引込ひっこめてしまった。
 ――小鳥は比羅びらのようなものに包んでくれた。比羅は裂いて汽車の窓から――小鳥は――包み直して宿へ着いてから裏の川へ流した。が、眼張魚めばるは、ひきがえるだとことわざに言うから、血の頬白は、※(「魚+成」、第3水準1-94-43)うぐいになろうよ。――その男のだね、名刺に、用のありそうな人物が、何となく、立っていたんじゃないかとも思ったよ。」
 家業がら了解わかりは早い。
「そのむきの方なら、大概私が顔見知りよ。……いいえ、盗賊どろぼうや風俗の方ばかりじゃありません。」
「いや、大きに――それじゃ違ったろう。……安心した。――時に……実は椎の樹を通ってもらおうと思ったが、お藻代さんの話のいまだ。今度にしようか。」
「ええ、どちらでも。……ですが、もうこの軒を一つ廻った塀外が、じきその椎の樹ですよ。棟に蔭がさすでしょう。路地の暗いのもそのせいですわ。」
「大きな店らしいのに、寂寞ひっそりしている。何屋だろう。」
「有名な、湯葉屋です。」
「湯葉屋――坊主になりそこなった奴の、慈姑くわいと一所に、大好きなものだよ。豆府の湯へ箱形の波を打って、皮が伸びて浮く処をすくい上げる。よく、東の市場でのぞいたっけ。……あれは、面白い。」
「入ってみましょう。」
「障子は開いている――ははあ、大きな湯の字か。こん度は映画と間違えなかった。しかし、誰も居ないが、……いかい。」
「何かいったら、挨拶をしますわ。ちょっと参観に、何といいましょう、――見学に、ほほほ。」
 掃清めた広い土間に、おしいかな、火の気がなくて、ただ冷たいむろだった。妙に、日の静寂間しじまだったと見えて、人の影もない。窓の並んだ形が、椅子をかたづけた学校に似ていたが、一列に続いて、ざっと十台、曲尺かねじゃくに隅を取って、また五つばかりあかがねの角鍋が並んで、中に液体だけはたたえたのに、青桐あおぎりの葉が枯れつつ映っていた。月も十五に影を宿すであろう。出ようとすると、向うの端から、ちらちらといて、次第にかまどに火が廻った。電気か、瓦斯がすを使うのか、ほとんど五彩である。ぱッと燃えはじめた。
 この火が、一度に廻ると、カアテンを下ろしたように、窓が黒くなって、おかしな事には、立っている土間にひだを打って、しわが出来て、濡色に光沢つやが出た。
 お町が、しっかりと手を取った。
 背後うしろから、
「失礼ですが、貴方あなた……」
 前刻さっき蓮根市はすいちの影法師が、旅装で、白皙はくせきの紳士になり、且つ指環ゆびわを、かまどの火に彩られてあらわれた。
「おお、これは。」
 名古屋に時めく大資産家の婿君で、某学校の教授と、人の知る……すなわち、以前、この蓮池邸はすいけやしきの坊ちゃんであった。
「見覚えがおありでしょう。」
 とななめに向って、お町にいった。
「まあ。」
 時めく婿は、帽子ソフトを手にして、
「後刻、お伺いする処でした。」
 驚破す、再び、うぐい亭の当夜の嫖客ひょうかくは――かれであった。
 三人のめぐりあい。しかし結末にはならない。おなじくるわへ、第一歩、三人のつまさきが六つ入交いれまじった時である。
 落葉のそよぐほどの、跫音あしおともなしに、曲尺かねじゃくの角を、この工場から住居すまいへ続くらしい、細長い、暗い土間から、白髪しらががすくすくと生えた、八十を越えよう、目口も褐漆かっしつに干からびた、脊の低い、小さなばあさんが、継はぎの厚い布子ぬのこで、腰をかがめて出て来た。
 蒼白まっさおになって、お町があとへ引いた。
「おばあさん、見物をしていますよ。」
 と鷹揚おうように、先代の邸主はおちついて言った。
 何と、ばばあごをしゃくって、指二つで、目をはじいて、じろりと見上げたではないか。
「無断で、いけませんでしたかね。」
 外套氏は、やや妖変ようへんを感じながら、丁寧に云ったのである。
「どうなとせ。」
 つばと泡が噛合かみあうように、ぶつぶつと一言ひとこといったが、ふ、ふふん、と鼻の音をさせて、膝の下へ組手のまま、腰を振って、さあ、たしかなべの列のちょうど土間へ曲角の、火の気のかっと強い、その鍋の前へ立つと、しゃんと伸びて、ひじを張り、湯気のむらむらと立つ中へ、いきなり、くしゃくしゃの顔を突込つっこんだ。
 が、ばっと音を立てて引抜いた灰汁あくつらと、べとりと真黄色まっきいろ附着くッついた、豆府の皮と、どっちのしわぞ! ったように、低くしゃがんで、その湯葉の、長い顔を、目鼻もなしに、ぬっともたげた。
 口のあたりが、びくりと動き、こけの青い舌を長く吐いて、見よ見よ、べろべろとめ下ろすと、湯葉は、ずりさがり、めくれり、黒い目金と、耳までのマスクで、口が開いた、その白い顔は、湯葉一枚を二倍にして、土間の真中まんなかに大きい。
 同時に、蛇のように、再び舌がうねって舐め廻すと、ぐしゃぐしゃと顔一面、山女あけびつぶして真赤まっかになった。
 お町の肩を、両手でしっかとしめていて、一つ所にかたまった、我が足がよろめいて、自分がドシンと倒れたかと思う。名古屋の客は、前のめりに、近く、第一の銅鍋の沸上った中へおもてして突伏つっぷした。
「あッ。」
 片手で袖をつかんだ時、布子の裾のこわばった尖端とっさきがくるりとねて、ばばあの尻が片隅へ暗くかくれた。かまどの火は、炎を潜めて、一時いっときに皆消えた。
 同時に、雨がまた迫るように、窓の黒さが風に動いて、り上ったように見透かさるる市街に、暮早き電燈の影があかく立って、あかがねの鍋は一つ一つ、稲妻に似てぴかぴかと光った。
 足許も定まらない。土間のしわが裂けるかと思う時、ひいても離れなかった名古屋の客の顔が、湯気を飛ばして、辛うじて上るとともに、ぴちぴちとうおのごとく、手足をねて、どっと倒れた。両腋を抱いて、抱起した、その色は、火の皮の膨れた上に、ただれが紫の皺を、波打って、動いたのである。
 いちのあたりの人声、この時にぎやかに、古椎ふるしいこずえの、ざわざわと鳴る風の腥蕈なまぐささ。
 ――病院は、ことさらに、お藻代の時とちがった、ほかのを選んだ。
 生命いのち仔細しさいはない。
 男だ。容色なんぞは何でもあるまい。
 ただお町の繰り言に聞いても、お藻代の遺書かきおきにさえ、黒髪のおくれ毛ばかりも、怨恨うらみは水茎のあとに留めなかったというのに。――
 現代――ある意味において――めぐる因果の小車おぐるまなどという事は、天井裏の車麩くるまぶを鼠が伝うぐらいなものであろう。
 待て、それとても不気味でない事はない。
 魔は――鬼神は――あると見える。

 附言。
 今年、四月八日、灌仏会かんぶつえに、お向うの遠藤さんと、家内と一所に、麹町こうじまち六丁目、擬宝珠ぎぼうし屋根に桃の影さす、真宝寺の花御堂はなみどうもうでた。寺内に閻魔堂えんまどうがある。遠藤さんが扉を覗いて、袖で拝んで、
「お釈迦様と、お閻魔さんとは、どういう関係があるんでしょう。」
 唯今、七彩五色の花御堂に香水を奉仕した、この三十歳の、竜女の、深甚微妙なる聴問には弱った。要品ようほん読誦どくじゅする程度の智識では、説教も済度も覚束おぼつかない。
「いずれ、それは……その、如是我聞にょぜがもんという処ですがね。と時に、見附を出て、美佐古みさご(鮨屋)はいかがです。」
「いや。」
「これは御挨拶。」
 いきな坊主の還俗したのでもないものが、こはだの鮨を売るんだから、ツンとして、愛想のないのに無理はない。
朝飯あさを済ましたばかりなのよ。」
 午後三時半である。ききたまえ。
「そこを見込んで誘いましたよ。」
「私もそうだろうと思ってさ。」
 大通りを少しあるくと、向うから、羽織の袖で風呂敷づつみを抱いた、脊のすらりとした櫛巻くしまきの女が、ものしずかに来かかって、うつむいて、通過ぎた。
「いい女ね。見ましたか。」
「まったく。」
「しっとりとした、いい容子ようすね、目許めもとに恐ろしく情のある、口許の優しい、少し寂しい。」
 三人とも振返ると、町並樹の影に、その頸許えりもとが白く、肩がやつれていた。
 かねて、外套氏から聞いた、お藻代のおもかげに直面した気がしたのである。
 路地うちに、子供たちの太鼓の音がにぎわしい。入って見ると、裏道の角に、稲荷神いなりがみほこらがあって、のぼりが立っている。あたかも旧の初午はつうまの前日で、まだ人出がない。地口行燈じぐちあんどんがあちこちに昼の影を浮かせて、飴屋あめや、おでん屋の出たのが、再び、気のせいか、談話中の市場を髣髴ほうふつした。
 縦通りを真直まっすぐに、中六なかろく突切つッきって、左へ――女子学院の塀に添って、あれから、帰宅のみちを、再び中六へ向って、順に引返ひっかえすと、また向うから、容子といい、顔立もおなじような――これは島田髷しまだの娘さんであった――十八九のが行違った。
「そっくりね。」
「気味が悪いようですね。」
 と家内も云った。少し遠慮して、間をおいて、三人でひとしく振返ると、一脈の紅塵こうじん、軽く花片はなびらを乗せながら、うしろ姿を送って行く。……その娘も、町の三辻の処で見返った。春たけなわに、番町の桜は、しずかである。
 家へ帰って、摩耶夫人まやぶにんの影像――これだとすみやかに説教が出来る、先刻さっきの、花御堂の、あかちゃんの御母ぎみ――頂餅いただきと華をささげたのに、香をたいて、それから記しはじめた。

昭和六(一九三一)年七月




 



底本:「泉鏡花集成8」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年5月23日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集」岩波書店
   1942(昭和17)年7月刊行開始
入力:門田裕志
校正:林 幸雄
2001年9月17日公開
2005年9月27日修正
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