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妖術(ようじゅつ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:54:53  点击:  切换到繁體中文



       三

 が、拍子抜けのした事は夥多おびただしい。
 ストンと溝へ落ちたような心持ちで、電車を下りると、大粒ではないが、引包ひッつつむように細かく降懸ふりかかる雨を、中折なかおれはじく精もない。
 鼠のつばをぐったりとしながら、我慢に、吾妻橋の方も、本願寺の方も見返らないで、ここをあてに来たように、素直まっすぐに広小路を切って、仁王門を真正面まっしょうめん
 濡れても判明はっきりと白い、処々むらむらとが立って、雨の色が、花簪はなかんざし箱狭子はこせこ輪珠数わじゅずなどが落ちた形になって、人出の混雑を思わせる、仲見世の敷石にかかって、傍目わきめらないで、御堂みどうかたへ。
 そこらの豆屋で、豆をばちばちと焼くにおいが、雨を蒸して、暖かく顔を包む。
 その時、広小路で、電車の口からさっと打った網のすそが一度、混雑の波に消えて、やがて、むきのかわった仲見世へ、手元を細くすらすらと手繰寄せられたていに、前刻さっきの女が、肩を落して、雪かと思う襟脚細く、紺蛇目傘こんじゃのめを、姿の柳に引掛ひっかけて、つややかにさしながら、駒下駄を軽く、つまをはらはらとちと急いで来た。
 と見ると、左側から猶予ためらわないで、真中まんなかと寄って、一帆に肩を並べたのである。
 なよやかな白い手を、半ば露顕あらわに、飜然ひらりと友染の袖をからめて、紺蛇目傘をさしかけながら、
貴下あなた、濡れますわ。」
 と言う。瞳が、動いて莞爾にっこり留南奇とめきかおり陽炎かげろうのような糠雨ぬかあめにしっとりこもって、からかさが透通るか、と近増ちかまさりの美しさ。
 一帆の濡れた額は快よい汗になって、
「いいえ、構わない、私は。」
 と言った、がこれは心から素気そっけのない意味ではなかった。
「だって、召物が。」
「何、外套がいとうを着ています。」
 と別に何の知己ちかづきでもない女に、言葉を交わすのを、不思議とも思わないで、こうして二言三言、云ううちにも、つい、さしかけられたままで五足六足いつあしむあし。花の枝を手に提げて、片袖重いような心持で、同じからかさの中を歩行あるいた。
「人が見ます。」
 どうして見るどころか、人脚の流るる中を、美しいしぶきを立てるばかり、仲店前を逆らって御堂のみちへ上るのである。
 また、誰が見ないまでも、本堂からは、門をうろ抜けの見透みとおし一筋、お宮様でないのがまだしも、鏡があると、歴然ありありともう映ろう。
「御迷惑?」
 と察したように低声こごえで言ったのが、なお色めいたが、ちっと蛇目傘じゃのめを傾けた。
 目隠しなんどれたかと、はっきりした心持で、
「迷惑どころじゃ……しかしおだやかではありません。一人ものが随分通ります。」
 とやっと苦笑した。
「では、別ッこに……」と云うなり、ねた風にするりと離れた。
 と思うと、袖を斜めに、ちょっと隠れたさまに、一帆の方へ蛇目傘ながらほっそりしたせなを見せて、そこの絵草紙屋の店をながめた。けばけばしく彩った種々いろいろの千代紙が、にじむがごとく雨にもつれて、中でもべにが来て、女のまぶたをほんのりとさせたのである。
 今度は、一帆の方がそのそばへ寄るようにして、
「どっちへいらっしゃる。」
「私?……」
 とからかさの柄に、左手ゆんでえた。それが重いもののように、姿がしなった。
「どこへでも。」
 これを聞棄ききずてに、今は、ゆっくりと歩行あるき出したが、雨がふわふわと思いのまま軽い風に浮立つ中に、どうやら足許あしもともふらふらとなる。

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