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妖術(ようじゅつ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:54:53  点击:  切换到繁體中文



       四

 門の下で、うしろを振返って見た時は、何店どこへか寄ったか、わきれたか。仲見世の人通りは雨のおぼろに、ちらほらとより無かったのに、女の姿は見えなかった。
 それきりわぬ、とは心のうちに思わないながら、一帆は急に寂しくなった。
 妙に心もあらたまって、しばらく何事も忘れて、御堂みどうの階段を……あの大提灯おおぢょうちんの下を小さく上って、おごそかなひさしを……欄干に添って、廻廊を左へ、角の擬宝珠ぎぼしゅで留まって、何やらほっと一息ついて、しずくするまでもないが、しっとりとする帽子を脱いで、額を手布ハンケチで、ぐい、とぬぐった。
素面しらふだからな。」
 と歎息するように独言ひとりごとして、しごいて片頬かたほでた手をそのまま、欄干にひじをついて、あまねく境内をずらりとながめた。
 早いもので、もう番傘の懐手ふところで、高足駄で悠々と歩行あるくのがある。……そうかと思うと、今になって一目散に駆出すのがある。心は種々いろいろな処へ、これから奥は、御堂の背後うしろ、世間の裏へ入る場所なれば、何の卑怯ひきょうな、相合傘あいあいがさおくれは取らぬ、と肩のそびゆるまで一人で気競きおうと、雨もかすんで、ヒヤヒヤとほおに触る。一雫も酔覚よいざめの水らしく、ぞくぞくと快く胸が時めく……
 が、見透みとおしのどこへも、女の姿は近づかぬ。
「馬鹿な、それっきりか。いや、そうだろう。」
 と打棄うっちゃり放す。
 大提灯にはたはたとつばさの音して、雲は暗いが、紫の棟の蔭、天女もこもひさしから、鳩が二三羽、と出て飜々ひらひらと、早や晴れかかる銀杏いちょうこずえを矢大臣門の屋根へ飛んだ。
 胸を反らして空模様を仰ぐ、豆売りのおばあの前を、内端うちばな足取り、もすそを細く、蛇目傘じゃのめをやや前下りに、すらすらと撫肩なでがたの細いは……たしかに。
 スーとからかさをすぼめて、手洗鉢みたらしへ寄った時は、衣服きものの色が、美しくたたえた水に映るか、とこの欄干からはるかな心に見て取られた。……折からその道筋には、くだんの女ただ一人で。
 水色の手巾ハンケチを、はらりとなまめかしく口にくわえた時、肩越に、振仰いで、ちょいと廻廊のかたを見上げた。
 のめのめとそこに待っていたのが、了簡りょうけんの余り透く気がして、見られた拍子に、ふらりと動いて、背後うしろ向きに横へ廻る。
 パッパッと田舎の親仁おやじが、てのひらへ吸殻を転がして、煙管きせるにズーズーとやにの音。くく、とどこかで鳩の声。あかねあねえも三四人、鬱金うこん婆様ばさまに、菜畠なばたけ阿媽かかあまじって、どれも口を開けていた。
 が、あ、と押魂消おったまげて、ばらりと退くと、そこの横手の開戸口ひらきどぐちから、艶麗あでやかなのが、すうと出た。
 本堂へまいったのが、一廻りして、一帆の前にあらわれたのである。
 すぼめた蛇目傘じゃのめに手を隠して、
「お待ちなすって?」
 また、ほんのりと花のかおり
「何、ちっとも。……ゆっくりお参詣まいりをなさればい。」
貴下あなたこそ、さきへいらしってお待ち下さればうござんすのに、出張でっぱりにいらしって、しぶきつめたいではありませんか。」
 さっさと先へけではない。待ってくれれば、と云う、その待つのはどこか、約束も何もしないが、もうこうなっては、度胸がすわって、
「だって雨をくぐって、一人でびしょびしょ歩行あるけますか。」
「でも、その方がおすきな癖に……」
 と云って、肩でわざとらしくない嬌態しなをしながら、片手でちょいと帯をおさえた。ぱちんどめが少しって、……薄いがふっくりとある胸を、緋鹿子ひがのこ下〆したじめが、八ツ口からこぼれたように打合わせの繻子しゅすのぞく。
 その間に、きりりと挟んだ、煙管筒きせるづつ? ではない。象牙骨ぞうげぼねの女扇を挿している。
 今圧えた手は、帯がゆるんだのではなく、その扇子おうぎを、一息探く挿込んだらしかった。

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