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妖術(ようじゅつ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:54:53  点击:  切换到繁體中文



       六

 早く下りよ、と段はそこにきざはしを明けて斜めに待つ。自分に恥じて、もうその上は待っていられないまでになった。
 端へ出るのさえ、後を慕って、紙幣さつ引摺ひきずられるような負惜まけおしみの外聞があるので、角の処へも出ないでいた。なぜか、がっかりして、気が抜けて、その横手から下りて、みちを廻るのも億劫おっくうでならぬので、はじめて、ふらふらと前へ出て、元の本堂前の廻廊を廻って、欄干について、前刻さっき来がけとはいきおいが、からりとかわって、中折なかおれつばも深く、おもてを伏せて、そこを伝う風も、我ながら辿々たどたどしかった。
 トあの大提灯を、釣鐘が目前めのまえへぶら下ったように、ぎょっとして、はっと正面へつままれた顔を上げると、右の横手の、広前ひろまえの、片隅に綺麗に取って、時ならぬ錦木にしきぎ一本ひともと、そこへ植わった風情に、四辺あたりに人もなく一人立って、からかさを半開き、真白まっしろな横顔を見せて、生際はえぎわを濃く、美しく目迎えて莞爾にっこりした。
沢山たんと、待たせてさ。」と馴々なれなれしく云うのが、遅くなった意味には取れず、さかさまうらんで聞える。
 言葉戦いかなうまじ、と大手を拡げてむずと寄って、
「どこにしましょう。」
「どちらへでも、貴下あなたのおよろしい処がうござんす。」
「じゃ、行く処へいらっしゃい。」
「どうぞ。」
 ともう、相合傘の支度らしい、片袖を胸に当てる、柄よりも姿がほっそりする。
 丈がすらりと高島田で、並ぶと蛇目傘じゃのめの下につい
 で、大金だいきんへ入った時は、舟崎は大胆に、自分がからかさを持っていた。
 けれども、後で気が着くと、真打しんうちの女太夫に、うやうやしくもさしかけた長柄の形で、舟崎の図は宜しくない。
 通されたのが小座敷こざしきで、前刻さっき言ったその四畳半。廊下を横へ通口かよいぐち[#ルビの「かよいぐち」は底本では「かよひぐち」]がちょっと隠れて、気の着かぬ処に一室ひとまある……
 数寄すきに出来て、天井は低かった。畳の青さ。床柱にも名があろう……壁に掛けたかご豌豆えんどうのふっくりと咲いた真白まっしろな花、つるを短かく投込みにけたのが、窓明りにあかるく灯をともしたように見えて、桃の花より一層ほんのりと部屋も暖い。
 用を聞いて、円髷まげった女中が、しとやかにひらきを閉めてったあとで、舟崎は途中も汗ばんで来たのが、またこうこもったので、火鉢を前に控えながら、羽織を脱いだ。
 それを取って、すらりとしごいて、綺麗に畳む。
「これははばかり、いいえ、それには。」
「まあ、好きにおさせなさいまし。」
 と壁の隅へ、自分のわきへ、小膝こひざを浮かして、さらりとって、片手で手巾ハンケチさばきながら、
「ほんとうにちと暖か過ぎますわね。」
「私は、逆上のぼせるからなおたまりません。」
「陽気のせいですね。」
「いや、お前さんのためさ。」
「そんな事をおっしゃると、もっとそばへ。」
 と火鉢をぐい、として来て、
「そのかわり働いて、ちっと開けて差上げましょう。」
 と弱々とななめにひねった、着流しの帯のお太鼓の結目むすびめより低い処に、ちょうど、背後うしろの壁を仕切って、細いくぐり窓の障子がある。
 カタリ、と引くと、直ぐに囲いの庭で、敷松葉を払ったあとらしい、ふきの葉がめぐんだように、飛石が五六枚。
 柳の枝折戸しおりど、四ツ目垣。
 トその垣根へ乗越して、今フト差覗さしのぞいた女の鼻筋の通った横顔を斜違はすっかいに、月影に映す梅のずわえのごとく、おおいなる船のへさきがぬっと見える。
「まあ、いこと!」
 と嬉しそうに、なぜか仇気あどけない笑顔になった。

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