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縷紅新草(るこうしんそう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 11:02:24  点击:  切换到繁體中文


 

――ご紋は――
――牡丹――

 何、描かせては手間がとれる……第一実用むきの気といっては、いささかもなかったからね。これは、からかさでもよかったよ。パッと拡げて、菊を持ったお米さんに、背後うしろから差掛けて登ればかった。」
「どうぞ。……女万歳の広告に。」
「仰せのとおり。――いや、串戯じょうだんはよして。いまの並べた傘の小間隙間すきまへ、柳を透いて日のさすのが、銀の色紙しきしを拡げたような処へ、お前さんのその花についていたろう、蝶が二つ、あの店へ翔込たちこんで、傘の上へ舞ったのが、雪の牡丹へ、ちらちらとはくが散浮く……
 そのままに見えたと思った時も――箔――すぐこの寺に墓のある――同町内に、ぐっしょりと濡れた姿をはかなく引取った――箔屋――にも気がつかなかった。薄情とは言われまいが、世帯の苦労に、朝夕は、細く刻んでも、日は遠い。年月が余りへだたると、目前めのまえの菊日和も、遠い花の霞になって、夢のおぼろが消えてく。
 が、あらためて、澄まない気がする。御母堂の奥津城を展じたあとで。……ずっと離れているといいんだがな。近いと、どうも、この年でもきまりが悪い。きっと冷かすぜ、石塔の下から、クックッ、カラカラとまず笑う。」
「こわい、おじさん。おっかさんだがいいけれど。……私がついていますから、冷かしはしませんから、よく、お拝みなさいましよね。
 ――(糸塚)さん。」
「糸塚……初路さんか。糸塚は姓なのかね。」
「いいえ、あら、そう……おじさんは、ご存じないわね。
 ――糸塚さん、糸巻塚ともいうんですって。
 この谷を一つ隔てた、向うの山の中途に、鬼子母神きしもじん様のお寺がありましょう。」
「ああ、柘榴寺ざくろでら――真成寺しんじょうじ。」
「ちょっとごめんなさい。私も端の方へ、少し休んで。……いいえ、構うもんですか。落葉といってもにしきのようで、勿体ないほどですわ。あの柘榴の花の散った中へ、鬼子母神様の雲だといって、草履を脱いで坐ったのも、つい近頃のようですもの。お母さんにつれられて。白い雲、青い雲、紫の雲は何様でしょう。鬼子母神様はあかい雲のように思われますね。」
 墓所はじき近いのに、面影をはるかにしのんで、母親を想うか、お米は恍惚うっとりして云った。
 ――聞くとともに、辻町は、その壮年を三四年、相州逗子ずしに過ごした時、新婚のかれの妻女の、病厄のためにまさに絶えなんとした生命を、医療もそれよ。まさしく観世音の大慈の利験りやくに生きたことを忘れない。南海霊山の岩殿寺いわとのじ、奥の御堂みどうの裏山に、一処ひとところ咲満ちて、春たけなわな白光びゃっこうに、しきかおりみなぎった紫のすみれの中に、白い山兎の飛ぶのをつつ、病中の人を念じたのを、この時まざまざと、目前の雲に視て、輝く霊巌れいげんの台に対し、さしうつむくまで、心衷しんちゅうに、恭礼黙拝したのである。――

 お米の横顔さえ、※(くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1-91-26)ろうたけて、
「柘榴寺、ね、おじさん、あすこの寺内に、初代元祖、友禅の墓がありましょう。一頃はう人どころか、こけの下に土も枯れ、水もかわいていたんですが、近年ちかごろ他国の人たちが方々から尋ねて来て、世評が高いもんですから、記念碑が新しく建ちましてね、名所のようになりました。それでね、ここのお寺でも、新規に、初路さんの、やっぱり記念碑を建てる事になったんです。」
「ははあ、和尚さん、娑婆気しゃばっけだな、人寄せに、黒枠で……と身を投げた人だから、薄彩色うすざいしき水絵具の立看板。」
「黙って。……いいえ、お上人よりか、檀家の有志、県の観光会の表向きの仕事なんです。お寺は地所を貸すんです。」
「葬った土とは別なんだね。」
「ええ、それで、糸塚、糸巻塚、どっちにしようかっていってるところ。」
「どっちにしろ、友禅の(染)に対する(糸)なんだろう。」
「そんな、ただ思いつき、趣向ですか、そんなんじゃありません。あの方、はんけちの工場へ通って、縫取をしていらしってさ、それが原因もとで、あんな事になったんですもの。糸も紅糸べにいとからですわ。」
「糸も紅糸……はんけちの工場へ通って、縫取をして、それが原因もと?……」
「まあ、何にも、ご存じない。」
「怪我にも心中だなどという、そういっちゃ、しかし済まないけれども、何にも知らない。おなじ写真を並んで取っても、大勢の中だと、いつとなく、生別れ、死別れ、年がつと、それっきりになる事もあるからね。」
 辻町は向直っていったのである。
「蟹は甲らに似せて穴を掘る……も可訝おかしいかな。おなじ穴の狸……飛んでもない。一升入のひさごは一升だけ、何しろ、当推量も左前だ。誰もおきまりの貧のくるしみからだと思っていたよ。」
 また、事実そうであった。
「まあ、そうですか、いうのもお可哀相。あの方、それは、おくらしに賃仕事をなすったでしょう。けれど、もと、千五百石のおやしき※(くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1-91-26)じょうろうさん。」
「おお、ざっとお姫様だ。ああ、惜しい事をした。あの晩一緒に死んでおけば、今頃はうまれかわって、小いろの一つも持った果報な男になったろう。……糸も、紅糸は聞いても床しい。」
「それどころじゃありません。その糸から起った事です。千五百石の女※(くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1-91-26)ですが、初路さん、お妾腹めかけばらだったんですって。それでも一粒種、いい月日のもとに、生れなすったんですけれど、廃藩以来、ほどなく、お邸は退転、御両親も皆あの世。お部屋方の遠縁へ引取られなさいましたのが、いま、お話のありました箔屋なのです。時節がら、箔屋さんも暮しが安易らくでないために、工場こうば通いをなさいました。お邸育ちのお慰みから、縮緬ちりめん細工もお上手だし、お針は利きます。すぐ第一等の女工さんでごく上等のものばかり、はんけちと云って、薄色もありましょうが、おもに白絹へ、蝶花を綺麗に刺繍ししゅうをするんですが、いい品は、国産の誉れの一つで、内地より、外国へ高級品で出たんですって。」
「なるほど。」

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