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縷紅新草(るこうしんそう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 11:02:24  点击:  切换到繁體中文


 いうまじき事かも知れぬが、辻町の目にも咄嵯とっさに印したのは同じである。台石から取ってえした、持扱いの荒くれた爪摺つまずれであろう、青々と苔の蒸したのが、ところどころ※(「てへん+毟」、第4水準2-78-12)むしられて、日のくまかすかに、石肌の浮いた影を膨らませ、影をまた凹ませて、残酷にからめた、さながら白身のやつれた女を、反接緊縛きんばくしたに異ならぬ。
 推察にかたくない。いずれかの都合で、新しい糸塚のために、ここの位置を動かして持運ぼうとしたらしい。
 が、心ない仕業をどうする。――お米の羽織に、そうして、墓の姿を隠してかった。花やかともいえよう、ものに激した挙動ふるまいの、このしっとりした女房の人柄に似ないすばや仕種しぐさの思掛けなさを、辻町は怪しまず、さもありそうな事と思ったのは、お京の娘だからであった。こんな場に出逢っては、きっとおなじはからいをするに疑いない。そのかわり、娘と違い、落着いたもので、澄まして羽織を脱ぎ、背負揚しょいあげを棄て、悠然と帯をいわおに解いて、あらわな長襦袢ながじゅばんばかりになって、小袖ぐるみ墓に着せたに違いない。
 何、夏なら、炎天なら何とする?……と。そういう皮肉な読者おかたには弱る、が、言わねば卑怯ひきょうらしい、裸体はだかになります、しからずんば、辻町が裸体にされよう。
 ――その墓へはまず詣でた――
 引返ひっかえして来たのであった。
 辻町の何よりも早くここでしよう心は、立処たちどころに縄を切って棄てる事であった。瞬時といえども、人目にさらすに忍びない。るとなれば手伝おう、お米の手を借りて解きほどきなどするのにも、二人の目さえ当てかねる。
 さしあたり、ことわりもしないで、他の労業を無にするという遠慮だが、その申訳と、渠等かれらを納得させる手段は、酒と餅で、そんなに煩わしい事はない。手で招いても渋面のしわは伸びよう。また厨裡くり心太ところてんを突くような跳梁権ちょうりょうけんを獲得していた、檀越だんおつ夫人の嫡女ちゃくじょがここに居るのである。
 栗柿をく、庖丁、小刀、そんなものを借りるのに手間ひまはかからない。
 大剪刀おおばさみが、あたかも蝙蝠こうもりの骨のように飛んでいた。
 取って構えて、ちと勝手は悪い。が、縄目は見る目に忍びないから、きぬを掛けたこのまま、留南奇とめきく、絵で見た伏籠ふせごを念じながら、もろ手を、ずかと袖裏へ。驚破すわ、ほんのりと、暖い。ぶんと薫った、石の肌のやわらかさ。
 思わず、
「あ。」
 と声を立てたのであった。

「――おばけの蜻蛉、おじさん。」
「――何そんなものの居よう筈はない。」
 胸傍むなわきの小さなあざ、この青いこけ、そのお米の乳のあたりへはさみが響きそうだったからである。辻町は一礼し、墓に向って、きっといった。
「お嬢さん、私の仕業が悪かったら、手を、怪我をおさせなさい。」
 鋏はさわやかな音を立てた、ちちろも声せず、松風を切ったのである。
「やあ、塗師屋ぬしや様、――ご新姐しんぞ。」
 木戸から、寺男の皺面しわづらが、墓地下で口をあけて、もうわめき、冷めし草履のれたもので、これは※(「石+角」、第3水準1-89-6)こうかくたるみちは踏まない。草土手を踏んで横ざまに、そばへ来た。
 続いて日傭取ひようとりが、おなじく木戸口へ、肩を組合って低く出た。
「ごめんなせえましよ、お客様。……ご機嫌よくこうやってござらっしゃる処を見ると、間違まちげえごともなかったの、何も、別条はなかっただね。」
「ところが、おっさん、少々別条があるんですよ。きみたちの仕事を、ちょっと無駄にしたぜ。一杯買おう、これです、ぶつぶつに縄を切払きっぱらった。」
「はい、これは、はあ、いい事をさっせえて下さりました。」
「何だか、あべこべのような挨拶だな。」
「いんね、全くいい事をなさせえました。」
「いい事をなさいましたじゃないわ、おいたわしいじゃないの、女※(くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1-91-26)さんがさ。」
「ご新姐、それがね、いや、この、からげ縄、畜生。」
 そこで、かがんで、毛虫を踏潰ふみつぶしたような爪さきへ近く、切れて落ちた、むすびめの節立った荒縄を手繰棄てに背後うしろ刎出はねだしながら、きょろきょろと樹の空を見廻した。
 妙なもので、下木戸の日傭取たちも、申合せたように、揃って、かがんで、空を見る目が、皆動く。
「いい塩梅あんばいに、幽霊蜻蛉、消えただかな。」
「一体何だね、それは。」
「もの、それがでござりますよ、お客様、この、はい、石塔を動かすにつきましてだ。」
「いずれ、あの糸塚とかいうのについての事だろうが、何かね、掘返してお骨でも。」
「いや、それはなりましねえ。記念碑発起押っぽだての、帽子、靴、洋服、はかまひげの生えた、ご連中さ、そのつもりであったれど、寺の和尚様、承知さっしゃりましねえだ。ものこれ、三十年ったとこそいえ、若い※(くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1-91-26)じょうろううまってるだ。それに、久しい無縁墓だで、ことわりいう檀家もなしの、立合ってくれる人の見分もないで、と一論判ひとろっぱんあった上で、土には触らねえ事になったでがす。」
「そうあるべき処だよ。」
「ところで、はい、あのさ、石彫いしぼりでけえ糸枠の上へ、がっしりと、立派なお堂を据えて戸をあけたてしますだね、その中へこの……」
 お米は着流しのお太鼓で、まことに優に立っている。
「おお、成仏をさっしゃるずら、しおらしい、嫁菜の花のお羽織きて、霧は紫の雲のようだ、しなしなとしてや。」
 と、こけの生えたような手ででた。
「ああ、くすぐったい。」
「何でがすい。」
 と、何も知らず、久助は墓の羽織を、もう一撫で。
「この石塔をいつき込むもくろみだ。その堂がもう出来て、切組みも済ましたで、持込んで寸法をきっちり合わす段が、はい、ここはこの通り足場が悪いと、山門うちまで運ぶについて、今日さ、この運び手間だよ。肩がわりの念入りで、丸太棒まるたんぼうかつぎ出しますに。――丸太棒めら、丸太棒を押立おったてて、ごろうじませい、あすこにとぐろを巻いていますだ。あのさきへ矢羽根をつけると、掘立普請のときが出るだね。へい、墓場の入口だ、地獄の門番……はて、飛んでもねえ、肉親のご新姐ござらっしゃる。」
 と、泥でまぶしそうに、口のはたこぶしでおさえて、
「――そのさ、担ぎ出しますに、石の直肌じかはだに縄を掛けるで、わらなりむしろなりの、花ものの草木を雪囲いにしますだね、あの骨法でなくば悪かんべいと、お客様のめえだけんど、わし一応はいうたれども、丸太棒めら。あに、はい、墓さ苞入つといりに及ぶもんか、手間ざいだ。また誰も見ていねえで、構いごとねえだ、といての。
 和尚様は今日は留守なり、お納所なっしょ、小僧も、総斎そうどきに出さしった。まず大事ねえでの。はい、ぐるぐるまきのがんじがらみ、や、このしょで、転がし出した。それさ、そのかたでがすよ。わしさ屈腰かがみごしで、膝はだかって、つらを突出す。奴等やつら三方からかぶさりかかって、棒を突挿そうとしたと思わっせえまし。何と、この鼻の先、奴等の目の前へ、縄目へ浮いて、羽さはじいて、赤蜻蛉が二つ出た。
 たった今や、それまでというものは、四人八ツの、団栗目どんぐりまなこに、糠虫ぬかむし一疋入らなんだに、かけた縄さ下からくぐって石からいて出たはどうしたもんだね。やあやあ、しっしっ、吹くやら、払いますやら、じっとして赤蜻蛉が動かねえとなると、はい、時代違いで、何の気もねえ若いてやいも、さてこの働きにかかってみれば、記念碑糸塚の因縁さ、よく聞いて知ってるもんだで。
 ほれ、のろのろとこっちさ寄って来るだ。あの、さきへ立って、丸太棒をついた、その手拭てぬぐいをだらりと首へかけた、たくましい男でがす。奴が、女※(くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1-91-26)の幽霊でねえか。出たッと、またひげどのが叫ぶと、蜻蛉がひらりと動くと、かっと二つ、きゅうのような炎が立つ。冷い火を汗に浴びると、うら山おろしの風さ真黒まっくろに、どっと来た、煙の中を、目がくらんでげたでござえますでの。………

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