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縷紅新草(るこうしんそう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 11:02:24  点击:  切换到繁體中文


 それでがすもの、ご新姐、お客様。」
「それじゃ、私たち差出た事は、叱言こごとなしに済むんだね。」
「ほってもねえ、いい人扶ひとだすけして下せえましたよ。時に、はい、和尚様帰って、逢わっせえても、万々沙汰なしに頼みますだ。」
 そこへ、丸太棒が、のっそり来た。
「おじい、もういいか、大丈夫かよ。」
「うむ、見せえ、大智識さ五十年の香染こうぞめ袈裟けさより利益があっての、その、嫁菜の縮緬ちりめんなかで、幽霊はもう消滅だ。」
「幽霊も大袈裟だがよ、悪く、蜻蛉にたたられると、おこりを病むというから可恐おっかねえです。縄をかけたら、また祟って出やしねえかな。」
 と不精髯の布子が、ぶつぶついった。
「そういう口で、何で包むもの持って来ねえ。糸塚さ、女※(くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1-91-26)様、くくったお祟りだ、これ、敷松葉の数寄屋すきやの庭の牡丹に雪囲いをすると思えさ。」
「よし、おれが行く。」
 と、冬の麦稈帽むぎわらぼうが出ようとする。
「ああ、ちょっと。」
 袖を開いて、お米が留めて、
「そのまま、その上からおいわえなさいな。」
 不精髯が――どこか昔の提灯屋に似ていたが、
「このままでかね、勿体もってい至極もねえ。」
「かまいませんわ。」
「構わねえたって、これ、縛るとなると。」
「うつくしいお方が、見てる前で、むざとなあ。」
 麦藁むぎわらと、不精髯が目を見合って、半ばつぶやくがごとくにいう。
「いいんですよ、構いませんから。」
 この時、丸太棒が鉄のように見えた。ぶるぶると腕に力のみなぎったたくましいのが、
「よし、石も婉軟やんわりだろう。きれいなご新姐を抱くと思え。」
 というままに、くびの手拭が真額まっこうでピンとると、棒をハタと投げ、ずかと諸手を墓にかけた。袖のしなうを胸へ取った、前抱きにぬっと立ち、腰を張って土手を下りた。この方がかかり勝手がいいらしい。巌路いわみちへ踏みはだかるように足を拡げ、タタと総身に動揺いぶりれて、大きな蟹が竜宮の女房を胸に抱いて逆落しの滝に乗るように、ずずずずずと下りてく。
「えらいぞ、権太、怪我をするな。」
 と、髯が小走りに、土手の方から後へ下りる。
「俺だって、出来ねえ事はなかったい、遠慮をした、えい、誰に。」
 と、お米を見返って、ニヤリとして、麦藁が後に続いた。
頓生菩提とんしょうぼだい。……小川へ流すか、燃しますべい。」
 そういって久助が、掻き集めた縄のくずを、一束ねに握って腰をもたげた時は、三人はもう木戸を出て見えなかったのである。
「久……爺や、爺やさん、羽織はね。式台へほうり込んで置いていんですよ。」
 この羽織が、黒塗の華頭窓にかかっていて、その窓際の机に向って、お米はほっそりと坐っていた。冬の日は釣瓶つるべおとしというより、こずえ熟柿じゅくしつぶてに打って、もう暮れて、客殿の広い畳が皆暗い。
 こんなにも、清らかなものかと思う、お米のえり差覗さしのぞくようにしながら、盆に渋茶は出したが、火を置かぬ火鉢越しにかの机の上の提灯をた。
(――この、提灯が出ないと、ご迷惑でも話が済まない――)
 信仰に頒布する、当山、本尊のお札を捧げた三宝をかたわらに、硯箱すずりばこを控えて、硯の朱の方に筆を染めつつ、お米は提灯に瞳を凝らして、眉を描くように染めている。
「――きっと思いついた、初路さんの糸塚に手向けて帰ろう。赤蜻蛉――尾をくわえたのを是非頼む。塗師屋さんの内儀でも、女学校の出じゃないか。絵というと面倒だから図画で行くのさ。べにを引いて、二つならべれば、羽子の羽でもいい。胡蘿蔔にんじんを繊に松葉をさしても、形は似ます。指で挟んだ唐辛子でも構わない。――」
 と、たそがれの立籠めて一際漆のような板敷を、お米の白い足袋の伝う時、そそのかして口説いた。北辰妙見菩薩ほくしんみょうけんぼさつを拝んで、客殿へ退であったが。
 水をたっぷりとして、ちょっと口で吸って、つぼみの唇をぽッつり黒く、八枚の羽を薄墨で、しかし丹念にあしらった。瀬戸の水入が渋のついた鯉だったのは、あつらえたようである。
「出来た、見事々々。お米坊、机にそうやった処は、赤絵の紫式部だね。」
「知らない、おっかさんにいいつけて叱らせてあげるから。」
「失礼。」
 と、茶碗が、また、赤絵だったので、思わず失言をびつつ、準藤原女史に介添してお掛け申す……羽織を取入れたが、窓あかりに、
「これは、大分うらに青苔がついた。悪いなあ。たたんで持つか。」
 と、持ったのに、それにお米が手を添えて、
「着ますわ。」
「きられるかい、墓のを、そのまま。」
「おかわいそうな方のですもの、これ、荵摺しのぶずりですよ。」
 その優しさに、思わず胸がときめいて。
「肩をこっちへ。」
「まあ、おじさん。」
「おっかさんの名代だ、娘に着せるのに仔細しさいない。」
「はい、……どうぞ。」
 くるりと向きかわると、思いがけず、辻町の胸にヒヤリと髪をつけたのである。
「私、こいしい、おっかさん。」
 前刻さっきから――辻町は、演芸、映画、そんなものの楽屋に縁がある――ほんの少々だけれども、これは筋にして稼げると、ひそかに悪心のきざしたのが、この時、色も、よくも何にもない、しみじみと、いとしくて涙ぐんだ。
「へい。お待遠でござりました。」
 片手に蝋燭ろうそくを、ちらちら、片手に少しばかり火を入れた十能を持って、婆さんが庫裏くりから出た。
「糸塚さんへ置いて行きます、あとで気をつけて下さいましよ、烏が火をくわえるといいますから。」
 お米も、式台へもうかかった。
「へい、もう、刻限で、危気あぶなげはござりましねえ、嘴太烏ふとも、嘴細烏ほそも、千羽ヶ淵の森へんで寝ました。」
 大城下は、目の下に、町のは、柳にともれ、川に流るる。いしだんを下へ、谷の暗いように下りた。場末の五しょくはまだ来ない。
 あきない帰りの豆府屋が、ぶつかるように、ハタと留った時、
「あれ、蜻蛉が。」
 お米が膝をついて、手を合せた。
 あの墓石を寄せかけた、塚の糸枠の柄にかけて下山した、提灯が、山門へ出て、すこしずつ高くなり、裏山の風一通り、赤蜻蛉がそっと動いて、女の影が……二人見えた。

昭和十四(一九三九)年七月




 



底本:「泉鏡花集成9」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年6月24日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十四巻」岩波書店
   1940(昭和15)年6月30日第1刷発行
※「切燈籠」と「切籠燈」の混在は、底本と底本の親本の通りなので、そのままとしました。
入力:門田裕志
校正:多羅尾伴内
2003年9月3日作成
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●表記について
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