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黒百合(くろゆり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 13:13:48  点击:  切换到繁體中文



       三

「いらっしゃいまし。」
 縁側に手をつかえて、銀杏返いちょうがえしの小間使が優容しとやかに迎えている。後先あとさきになって勇美子の部屋に立向うと、たちまち一種身に染みるような快いかおりがした。縁の上も、床の前も、机の際も、と見るとかんばしい草と花とでみたされているのである。ある物は乾燥紙の上に半ば乾き、ある物は圧板おしいたの下に露を吐き、あるいは台紙に、紫、あか、緑、かば橙色だいだいいろ名残なごりとどめて、日あたりに並んだり。壁に五段ばかり棚を釣って、重ね、重ね、重ねてあるのは、不残のこらず種類の違った植物の標本で、中にはびんに密閉してあるのも見える。山、池、野原、川岸、土堤どて、寺、宮の境内、産地々々の幻をこの一室にめて物凄ものすごくも感じらるる。正面には、紫の房々とした葡萄ぶどうの房を描いて、光線をあしらった、そこにばかり日の影がして、明るいようで鮮かな、露垂るばかりの一面の額、ならべて壁に懸けた標本の中なる一輪の牡丹ぼたんくれないは、色はまだせ果てぬが、かえって絵のように見えて、薄暗い中へと入ったあるじの姫が、白と紫をかさねた姿は、一種言うべからざる色彩があった。
「道、」
「は、」と、いらえをし、大人しやかな小間使は、今座に直った勇美子と対向さしむかいに、紅革べにかわ蒲団ふとんを直して、
「千破矢様の若様、さあ、どうぞ。」
 帽子も着たままで沓脱くつぬぎ突立つったってた滝太郎は、突然いきなり縁に懸けてうしろざまに手を着いたが、不思議に鳥の鳴くがしたので、驚いて目を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはって、またてのひらでその縁の板の合せ目をおさえてみた。
「何だい、鳴るじゃあないか、きゅうきゅういってやがら、おや、可訝おかしいな。」
「お縁側が昔のままでございますから、もと好事ものずきでこんなに仕懸けました。鶯張うぐいすばりと申すのでございますよ。」
 小間使が老実立まめだっていうのを聞いて、滝太郎は恐入った顔色かおつきで、
「じゃあ声を出すんだろう、木だの、草だの、へ、色々なものが生きていら。」
「何をいってるのよ。」と勇美子は机の前に、整然ちゃんと構えながら苦笑する。
「どう遊ばしましたの。」
取為顔とりなしがおの小間使に向って、
「聞きねえ、勇さんが、ね、おい。」
「あれ、また、乱暴なことを有仰おっしゃいます。」と微笑ほほえみながら、道は馴々なれなれしくたしなめるがごとくに言った。
御容子ごようすにも御身分にもお似合い遊ばさない、ぞんざいなことばっかし。不可いけねえだの、居やがるだのッて、そんなことは御邸の車夫だって、部屋へ下って下の者同士でなければ申しません。本当に不可いけませんお道楽でございますねえ。」
「生意気なことをいったって、不可いけねえや、かしこまってるなあ冬のこッた。ござったのは食物でみねえ、夏向は恐れるぜ。」
「そのお口だものを、」といって驚いて顔を見た。
「黙って、見るこッた、折角お珍らしいのに言句もんくをいってると古くしてしまう。」といいながら、急いで手巾ハンケチほどいて、縁の上に拡げたのは、一つかみ、青いこけの生えた濡土である。
 勇美子は手を着いて、のぞくようにした。眉を開いて、艶麗あてやかに、
「何です。」
 滝太郎はせなを向けてぐっと澄まし、
「食いつくよ、活きてるから。」

       四

「まあ、若様、あなた、こっちへお上り遊ばしましな。」と小間使は一塊の湿った土をあえて心にも留めないのであった。
「面倒臭いや、そこへ入り込むと、かしこまらなけりゃならないから、沢山だい。」といって、片足を沓脱くつぬぎに踏伸ばして、片膝を立てておとがいを支えた。
「また、そんなことを有仰おっしゃらないでさ。」
「勝手でございますよ。」
「それではまあお帽子でもお取り遊ばしましな、ね、若様。」
 黙っている。心易立こころやすだてに小間使はわざとらしく、
「若様、もし。」
「堪忍しねえ、※(「火+玄」、第3水準1-87-39)まぶしいやな。」
 滝太郎はさも面倒そうに言い棄てて、再び取合わないといった容子を見せたが、俯向うつむいて、足に近い飛石のほとりきっと見た。かれ※(「火+玄」、第3水準1-87-39)いといって小間使に謝したけれども、今瞳を据えた、パナマの夏帽の陰なる一双のまなこは、極めて冷静なものである。小間使は詮方せんかたなげに、向直って、
「お嬢様、お茶を入れて参りましょう。」
 勇美子は余念なく滝太郎の贈物をながめていた。
珈琲コオヒイにいたしましょうか。」
「ああ、」
「ラムネを取りに遣わしましょうか。」
「ああ、」とばかりで、これも一向に取合わないので、小間使は誠に張合がなく、
「それでは、」といって我ながら訳も解らず、あやふやに立とうとする。
「道、」
「はい。」
冷水おひやが可いぜ、汲立くみたてのやつを持って来てくんねえ、後生だ。」
 といいも終らず、滝太郎はつかつかと庭に出て、飛石の上からいきなりつちの上へ手を伸ばした、はやいこと! つかまえたのは一疋の小さなあり
「おいらのせいじゃあないぞ、何だ、蟻のような奴が、たとえにもわあ、小さな体をして、動いてら。おう、堪忍しねえ、おいらのせいじゃあないぞ。」といいいい取って返して、縁側に俯向うつむいて、勇美子が前髪を分けたのに、眉を隠して、瞳をくだんの土産に寄せて、
「見ねえ。」
 勇美子は傍目わきめらないでいた。
 しばらくして滝太郎は大得意の色を表して、莞爾にっこ微笑ほほえみ、
「ほら、ね、どうだい、だから難有ありがとうッて、そう言いねえな。」
「どこから。」といって勇美子は嬉しそうな、そしてつむりを下げていたせいであろう、耳朶みみもとに少し汗がにじんで、※(「目+匡」、第3水準1-88-81)まぶちの染まった顔を上げた。
「どこからです、」
「え、」と滝太郎は言淀いいよどんで、かおの色が動いたが、やがて事も無げに、
「何、そりゃ、ちゃんと心得てら。でも、あの余計にゃあ無いもんだ。こいつあね、蠅じゃあ大きくって、駄目なの、小さな奴なら蜘蛛くもの子位はやッつけるだろう。こら、こわいなあ、まあ。」
 心なく見たらば、群がった苔の中で気は着くまい。ほとんど土の色とまがう位、薄樺色うすかばいろで、見ると、柔かそうに湿しめりを帯びた、小さな葉がかさなり合って生えている。葉尖はさきにすくすくと針を持って、なめらかに開いていたのが、今蟻を取って上へ落すと、あたかも意識したように、静々と針を集めて、見る見る内に蟻をとりこにしたのである。
 滝太郎は、見て、そのげんあるを今更に驚いた様子で、
「ね、特別に活きてるだろう。」

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