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夜叉ヶ池(やしゃがいけ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:49:40  点击:  切换到繁體中文

底本: 泉鏡花集成7
出版社: ちくま文庫、筑摩書房
初版発行日: 1995(平成7)年12月4日
入力に使用: 1995(平成7)年12月4日第1刷
校正に使用: 1995(平成7)年12月4日第1刷


底本の親本: 鏡花全集
出版社: 岩波書店
初版発行日: 1942(昭和17)年7月刊行開始

 

場所  越前国大野郡鹿見村琴弾谷
時   現代。――盛夏
人名  萩原晃(鐘楼守)
百合(娘)
山沢学円(文学士)
白雪姫(夜叉ヶ池の主)
湯尾峠の万年姥(眷属)
白男の鯉七
大蟹五郎
木の芽峠の山椿
鯖江太郎
鯖波次郎
虎杖の入道
十三塚の骨
夥多の影法師
黒和尚鯰入(剣ヶ峰の使者)
与十(鹿見村百姓)
その他大勢
鹿見宅膳(神官)
権藤管八(村会議員)
斎田初雄(小学教師)
畑上嘉伝次(村長)
伝吉(博徒)
小烏風呂助(小相撲)
穴隈鉱蔵(県の代議士)
劇中名をいうもの。――(白山剣ヶ峰、千蛇ヶ池の公達)

[#改ページ]

三国岳みくにだけふもとの里に、暮六くれむつの鐘きこゆ。――幕を開く。
萩原晃はぎわらあきらこの時白髪しらがのつくり、鐘楼しょうろうの上に立ちて夕陽せきようを望みつつあり。鐘楼は柱につたからまり、高き石段にこけ蒸し、棟には草生ゆ。晃やがておもむろに段を下りて、清水に米をぐお百合ゆりの背後にく。
晃 水は、美しい。いつ見ても……美しいな。
百合 ええ。
その水の岸に菖蒲あやめあり二三輪小さき花咲く。
晃 綺麗きれいな水だよ。(微笑ほほえむ。)
百合 (白髪のびんに手を当てて)でも、白いのでございますもの。
晃 そりゃ、米を磨いでいるからさ。……(かまちの縁に腰を掛く)お勝手働き御苦労、せっかくのお手を水仕事で台なしは恐多い、ちとお手伝いと行こうかな。
百合 うございますよ。
晃 いや……お手伝いという処だが、お百合さんのそうした処は、咲残った菖蒲を透いて、水に影がしたようでなお綺麗だ。
百合 存じません。
晃 めるのに怒るやつがありますか。
百合 おなぶり遊ばすんでございますものを。――そして旦那様だんなさまは、こんな台所へ出ていらっしゃるものではありません。早くお机の所へおいでなさいまし。
晃 鐘をく旦那はおかしい。実は権助ごんすけと名を替えて、早速おまんまにありつきたい。何とも可恐おそろしく腹が空いて、今、鐘を撞いた撞木しゅもくが、つえになればいと思った。ところで居催促いざいそくというかたもある。
百合 ほほほ、またおきまり。……すぐお夕飯にいたしましょうねえ。
晃 手品じゃあるまいし、磨いでいる米が、飯に早変わりはしそうもないぜ。
百合 まあ、あんな事を――これは翌朝あしたの分を仕掛けておくのでございますよ。
晃 翌朝の分――ああ、お所帯しょたいもち、さもあるべき事です。いや、それを聞いて安心したら、がっかりして余計空いた。
百合 何でございますねえ。……おかずも、あの、お好きな鴫焼しぎやきをして上げますから、おとなしくしていらっしゃいまし。お腹が空いたって、人が聞くと笑います。
晃 (縁を上る)誰に遠慮がいるものか、人が笑うのは、ね、お前。
百合 はい。
晃 お互いに朝寝の時――
百合 知りませんよ。(莞爾にっこり俯向うつむく。)
晃 うるさ薮蚊やぶっかが押寄せた。裏縁でいぶしてやろう。(納戸、背後うしろむきに山を仰ぐ)……雲の峰を焼落やきおとした、三国ヶ岳は火のようだ。西は近江おうみ、北は加賀、かすか美濃みのの山々峰々、数万すまん松明たいまつつらねたようにひでりほのおで取巻いた。夜叉やしゃヶ池へも映るらしい。ちょうどその水の上あたり、宵の明星の色さえ赤い。……なかなか雨らしい影もないな。
百合 ……その竜がむ、夜叉ヶ池からお池の水が続くと申します。ここの清水も気のせいやら、ながれ沢山たんとせました。このごろは村方で大騒ぎをしています。……暑さは強し……貴方あなた、お身体からださわりはしますまいかと、――めしあがりものの不自由な片山里は心細い。私はそれが心配でなりません。
晃 ながれが細ったって構うものか。お前こそ、その上夏痩せをしないがい。お百合さん、その夕顔の花に、ちょっと手を触ってみないか。
百合 はい、どういたすのでございますか。
晃 花にも葉にも露があろうね。
百合 ああ冷い。水の手にも涼しいほど、しっとり花が濡れましたよ。
晃 世間の人には金が要ろう、田地も要ろう、雨もなければなるまいが、我々二人きるには、百日照っても乾きはしない。その、露があれば沢山なんだ。(戸外おもてに向える障子をとざす。)
百合 貴方、お暑うございましょう。開けておおきなさいましても、もう、そちこち人も通りますまい。
晃 何、あらたまって、そんな心配をするものか。……晩方閉込とじこんで一燻ひといぶし燻しておくと、蚊が大分楽になるよ。
時に蚊遣かやりの煙なびく、
学円。日に焼けたるパナマ帽子、背広の服、落着おちつきのある人体じんていなり。風呂敷包をはすしょい、脚絆草鞋穿きゃはんわらじばきステッキづくりの洋傘こうもりをついて、鐘楼の下に出づ。打仰ぎ鐘を眺め、
学円 今朝、明六あけむつの橋を渡って、ここで暮六つの鐘を聞いた。……
お百合はざるに米をうつす。
学円 やあ、お精が出ます。(と声を掛く。)
百合 はい。(見向く。)
学円 途中、なわて竹藪たけやぶの処へ出て……暗くなった処で、今しがた聞きました。時を打ったはこの鐘でしょうな。
百合 さようでございます。
学円 音も尊い!……立派な鐘じゃ。鐘楼つりがねどうあがってみても差支えはありませんか。
百合 (ざるを抱えて立つ)ええ、大事ござんせん。けれども貴客あなた御串戯ごじょうだんに、お杖やなんぞでおたたき遊ばしては不可いけません。
学円 西瓜すいかを買うのではありません。決して敲いてはみますまい。(笑う。)
百合 御串戯おっしゃいます。……いいえ、悪戯いたずらを遊ばすようなお方とは、お見受け申しはしませんけれど、その鐘は、明六つと、暮六つと、夜中丑満うしみつに一度、――三度のほかは鳴らさない事になっておりますから、失礼とは存じましたが、ちょっと申上げたのでございます。さあ、どうぞ御遠慮なく、上って御覧なさいまし。(夕顔の垣根についていらんとす。)
学円 ああ、ちょっと……お待ち下さい。鐘を見ようと思いますが、ふとことばを交わしたを御縁に、余り不躾ぶしつけがましい事じゃが、茶なりと湯なりと、一杯お振舞い下さらんか。
百合 お易い事でございます。さあ、貴客あなた、これへお掛けなさいまし。
学円 御免下さいよ。
百合 まことに見苦しゅうございます。
学円 これは――お寺の庫裡くりとも見受ません。御本堂は離れていますか。
百合 いいえ、もう昔、焼けたと申しまして、以前から、寺はないのでございます。
学円 鐘ばかり……
百合 はい。
学円 鐘ばかり……成程、ところで西瓜の一件じゃ。(帽子を脱ぐ、ほとんど剃髪ていはつしたるごとき一分刈いちぶがりの額をでて)や、西瓜と云えば、内に甜瓜まくわうりでもありますまいか。――茶店でもない様子――(見廻す。)
片山家かたやまがの暮れく風情、茅屋かややの低き納戸の障子に灯影ほかげ映る。
学円 この上、晩飯の御難題は言出しませんが、いかんとも腹が空いた。
百合 ほほ。(と打笑うちえみ)かけひの下に、ありのみひやしてござんす、上げましょう。(と夕顔の蔭に立廻る。)
学円 (がぶがぶと茶をみ、衣兜ポケットから扇子を取って、あおいだのを、とかざして見つつ)おお、咲きました。貴女あなたの顔を見るように。
百合 ええ?(聞返す。)
学円 いや、髪の色を見るように。
百合 もう、年をとりますと、花どころではございません。早く干瓢かんぴょうにでもなりますれば、……とそればかりを待っております。
学円 小刀ナイフをこれへお遣わし……わしきます。――お世話を掛けてはかえって気遣いな。どれどれ……旅の事欠け、不器用ながら、なしの皮ぐらいは、うまく剥きます。おおおお氷よりよく冷えた。玉を削るとはこの事じゃろう。
百合 旅を遊ばす御様子にお見受け申します……貴客あなたは、どれから、どれへお越しなさいますえ?
学円 さて名告なのりを揚げて、何の峠を越すと云うでもありません。御覧の通り、学校に勤めるもので、暑中休暇に見物学問という処を、って歩行あるく……もっとも、帰途かえりみちです。――涼しくば木の芽峠、音に聞こえた中の河内かわちか、(ひさしはずれに山見る眉)峰の茶店ちゃや茶汲女ちゃくみおんな赤前垂あかまえだれというのが事実なら、疱瘡ほうそうの神の建場たてばでも差支えん。湯の尾峠を越そうとも思います。――落着くさきは京都ですわ。
百合 お泊りは? 貴客あなた、今晩の。
学円 ああ、うっかり泊りなぞお聞きなさらぬがい。言尻ことばじりに着いて、宿の御無心申さんとも限らんぞ。はははは、いや、串戯じょうだんじゃ。御心配には及ばんが、何と、その湯の尾峠の茶汲女は、今でも赤前垂じゃろうかね。
百合 山また山の峠の中に、嘘のようにもお思いなさいましょうが、まったくだと申します。
学円 谷の姫百合も緋色ひいろに咲けば、何もそれに不思議はない。が、この通り、山ばかり、かさなかさなる、あの、いただきを思うにつけて、……夕焼雲が、めらめらといわお焼込やけこむようにも見える。こりゃ、赤前垂より、雪女郎ですごうても、中の河内がいかも分らん。何にしろ、暑い事じゃね。――やっとここで呼吸いきをついた。
百合 里では人死ひとじにもありますッて……ひどひでりでございますもの。
学円 今朝から難行苦行なんぎょうくぎょうていで、暑さに八九里悩みましたが――可恐おそろしい事には、水らしい水というのを、ここに来てはじめて見ました。これは清水と見えます。
百合 裏のがけからきますのを、かけひにうけて落します……細いながれでございますが、石に当って、りんりんとがしますので、この谷を、あの琴弾谷ことひきだにと申します。貴客、それは、おいしい冷い清水。……一杯汲んで差上げましょうか。
学円 何が今まで我慢が出来よう、鐘堂つりがねどうも知らない前に、このうつくしい水を見ると、逆蜻蛉さかとんぼで口をつけて、手で引掴ひッつかんでがぶがぶと。
百合 まあ、私はどうしましょう、知らずにお米をぎました。
学円 いや、しらげ水は菖蒲あやめしぼり、夕顔の花の化粧になったと見えて、下流の水はやっぱり水晶。ささ濁りもしなかった。が、村里一統、飲む水にも困るらしく見受けたに、ここのみなもとまで来ないのは格別、流れを汲取るものもなかったように思う……何ぞ仔細しさいのある事じゃろうか。
百合 あの、湧きますのは、裏のがけでござんすけれど。
学円 はあ、はあ。……
百合 水のもとはこの山奥に、夜叉ヶ池と申します。すごい大池がございます。その水底みなそこには竜がむ、そこへ通うと云いまして――毒があると可恐こわがります。――もう薄暗くて見えますまいけれども、その貴客あなたながれの石には、水がかかって、紫だの、緑だの、口紅ほどな小粒もまじって、それは綺麗でございますのを、お池の主の眷属けんぞくうろこがこぼれたなんのッて、気味が悪いと申すんでございますから。……
学円 綺麗な石が毒蛇の鱗? や、がぶがぶと、えらいことをってしもうた。(と扇子をもって胸を打つ。)
百合 まあ、(と微笑ほほえみ)私どもがこの年まで朝夕飲んで何ともない、それをあの、人は疑うのでございます。
学円 もっとも、もっとも。ものを疑うのは人間の習いですよ。わしは今のおことばで、決して心配はしますまい。現に朝夕飲んでおらるる、――この年紀としまで――(と打ちまもり)お幾歳いくつじゃな。
百合 …………
学円 まあさ、失礼じゃが、お幾歳です?
百合 御免なさいまし、……忘れました。……
学円 ははは、俚言ことわざにも、婦人に対して、貴女はいつ死ぬとは問うてもい。が、いつ生れた、とは聞くな――とある。これは無遠慮に出過ぎました。……お幾歳じゃと年紀としは尋ねますまい。時に幾干いくらですか。
百合 幾干かとおっしゃって?
学円 代価じゃ。
百合 あの、お代、何の?……お宝……ま、滅相めっそうな。お茶代なぞ頂くのではないのでござんす。
学円 茶も茶じゃが、いやあこれは、ひげのようにもじゃもじゃと聞えておかしい。茶も勿論、梨を十分に頂いた。お商売でのうても無代価では心苦しい。ずばりと余計なら黙っても差置きますが、旅空なり、御覧の通りの風体ふうてい。ちゃんと云うて取って下さい。
百合 そうまでお気が済みませんなら、少々お代を頂きましょうか。
学円 勿論ともな。
百合 でも、あの、お代とさえ申しますもの、お宝には限りません。そのかわり、短いのでもうござんす、お談話はなしを一つ、お聞かせなすって下さいましな。
学円 談話をせい、……談話とは?
百合 方々旅を遊ばした、面白い、珍しい、お話しでございます。
学円 その談話を?
百合 はい、お代のかわりに頂きます。貴客あなたには限りませず、薬売の衆、行者ぎょうじゃ、巡礼、この村里の人たちにも、お間に合うものがござんして、そのお代をと云う方には、誰方どなたにも、お談話を一条ひとつずつ伺います。沢山たんとお聞かせ下さいますと、お泊め申しもするのでござんす。
学円 むむ、これこそ談話じゃ。(と小膝こひざうって)面白い。話しましょう。……が、さて談話というて、差当り――お茶代になるのじゃからって、長崎から強飯こわめしでもあるまいな。や、思出した。しかもこの越前えちぜんじゃ。
晃 (細く障子を開き差覗さしのぞく。)
時に小机に向いたり。双紙を開き、筆を取りて、客の物語る所をかき取らんとしたるなるが、学円と双方、ふと顔を合せて、何とかしけん、燈火ともしびをふっと消す。
百合 どんなお話、もし、貴客あなた
学円 ……時にここで話すのを、貴女のほかに聞く人がありますかね。
百合 いいえ、ほかにはお月様ばかりでござんす。


 

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