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夜叉ヶ池(やしゃがいけ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:49:40  点击:  切换到繁體中文

 
姥 二個ふたつの川の御支配遊ばす。
椿 百万石のお姫様。
姥 我ままは……
一同 相成りませぬ。
姥 お身体からだ
一同 大事にござります。
白雪 ええ、うるさいな、お前たち。義理も仁義も心得て、長生ながいきしたくば勝手におし。……生命いのちのために恋は棄てない。お退き、お退き。
一同、入乱れて、遮りとどむるを、振払い、くぐって、はて真中まんなか取籠とりこめられる。
お退きというに、え……
とじれて、鉄杖てつじょうを抜けば、白銀しろがねの色、月に輝き、一同は、はッと退く。姫、するすると寄り、さっと石段を駈上かけのぼり、柱にすがってきっと鐘を――
諸神、諸仏は知らぬ事、天の御罰ごばちこうむっても、白雪の身よ、朝日影に、なさけの水に溶くるは嬉しい。五体は粉に砕けようと、八裂やつざきにされようと、恋しい人を血に染めて、燃えあこがるる魂は、かすかな蛍の光となっても、剣ヶ峰へ飛ばいでおこうか。
晃然こうぜんとかざす鉄杖輝く……時に、月夜をはるかに、唄の声す。
==ねんねんよ、おころりよ、ねんねの守はどこへいた、山を越えて里へいった、里の土産に何貰うた、でんでん太鼓にしょうの笛==
白雪 (じっと聞いて、聞惚ききほれて、火焔かえんたもとたよたよとなる。やがて石段の下を呼んで)姥、姥、あの声は?……
姥 やしろの百合でござります。
白雪 おお、美しいお百合さんか、何をしているのだろうね。
姥 恋人の晃の留守に、人形を抱きまして、心遣こころやりに、子守唄をうたいまする。
白雪 恋しい人と分れている時は、うたを唄えば紛れるものかえ。
姥 おおせの通りでござります。
一同 姫様ひいさま、遊ばして御覧じませぬか。
白雪 思いせまって、つい忘れた。……私がこの村を沈めたら、美しい人の生命いのちもあるまい。鐘をけばあだだけれども、(と石段をしずかに下りつつ)このの二人は、ねたましいが、うらやましい。姥、おとなしゅうして、あやかろうな。
姥 (はらはらと落涙して)お嬉しゅう存じまする。
白雪 (椿に)お前も唄うかい。
椿 はい、いろいろのを存じております。
鯉七 いや、お腰元衆、いろいろ知ったは結構だが、近ごろはやる==池の鯉よ、緋鯉ひごいよ、早く出てを食え==なぞと、馬鹿にしたようなのはお唄いなさるな、失礼千万、御機嫌を損じよう。
椿 まあ……お前さんが、身勝手な。
一同 (どっと笑う。)――
白雪 人形抱いて、私も唄おう……剣ヶ峰のおつかい。
鯰入 はあ、はあ、はッ。
白雪 お返事を上げよう……一所に――椿や、文箱ふばこをお預り。――みなも御苦労であった。
一同敬う。=でんでん太鼓にしょうの笛、起上り小法師こぼし風車かざぐるま==と唄うを聞きつつ、左右に分れて、おいおいに一同入る。陰火全く消ゆ。
月あかりのみ。遠くに犬え、近く五位鷺ごいさぎく。
お百合、いきを切って、つまもはらはらとげ帰り、小家こやの内に駈入かけいり、隠る。あとより、村長畑上嘉伝次はたがみかでんじ、村の有志権藤ごんどう管八、小学校教員斎田初雄、村のものともに追掛おっかけ出づ。一方より、神官代理鹿見宅膳しかみたくぜん小力士こりきし小烏風呂助こがらすふろすけと、前後あとさきに村のもの五人ばかり、烏帽子えぼし素袍すおう雑式ぞうしき仕丁しちょう扮装いでたちにて、一頭の真黒まっくろき大牛を率いて出づ。牛の手綱は、小力士これを取る。
村一 内へ隠れただ、内へ隠れただ。
村二 真暗まっくらだあ。
初雄 あかりを消したって夏の虫だに。
管八 踏込ふんごんで引摺出ひきずりだせ。
村のもの四五人、ばらばらと跳込おどりこむ。内に、あれあれと言う声。雨戸ばらばらとはずるる。
真中まんなかきっとなり――左右を支えて、
百合 何をおしだ、人の内へ。
管八 人の内も我が内もあるものかい。鹿見一郡六ヶ村。
初雄 焼土やけつちになろう、野原にげようという場合であるです。
宅膳 (ずっと出で)こりゃ、お百合、見苦しい、何をざわつく。唯今ただいまも、途中で言聞かした通りじゃ。きさまに白羽の矢が立ったで、否応いやおうはないわ。六ヶ村の水切れじゃ。米ならば五万石、八千人のために、雨乞あまごい犠牲にえになりましょう! 小児こどものうちから知ってもおろうが、絶体絶命のひでりの時には、村第一の美女を取って裸体はだかき……
百合 ええ。(と震える。)
宅膳 黒牛の背に、くら置かず、荒縄にいましめる。や、もっとも神妙に覚悟して乗ってけば縛るには及ばんてさ。……すなわち、草を分けて山の腹に引上せ、夜叉ヶ池の竜神に、この犠牲いけにえを奉るじゃ。が、生命いのちは取らぬ。さるかわり、背に裸身はだかみの美女を乗せたまま、池のほとりで牛をほふって、角あるこうべと、尾を添えて、これを供える。……肉は取って、村一同冷酒ひやざけを飲んでくらえば、一天たちまち墨を流して、三日の雨が降灌ふりそそぐ。田もはた蘇生よみがえるとあるわい。昔から一度もそのしるしのない事はない。お百合、それだけの事じゃ。我慢して、村長閣下の前につけても御奉公申上げい。さあ、立とう、立ちましょう。
百合 叔父さん、何にも申しません、どうぞ、あの、晃さん、旦那様のお帰りまでお待ちなすって下さいまし。もし、皆さん、堪忍して下さいまし。……手を合せて拝みます。そ、そんな事が、まあ、私に……
管八 何だとう?
初雄 貴女あなた、お百合さん、何ですか。
百合 叔父さん、後生でございます……晃さんの帰りますまで。
宅膳 またしても旦那様じゃ。晃、晃とあきれたやつめが。これ、うしお満干みちひ、月の数……今日の今夜の丑満うしみつは過されぬ。立ちましょう、立ちましょう。
管八 言うことをかんとくくり上げるぞ。
嘉伝次 村、こおりのためじゃ、是非がない。これ、はい、気の毒なものじゃわい。
管八 お神官かんぬし、こりゃいかんでえ?
宅膳 引立ひったててうござる。
管八 来い、それ。
と村のもの取込むる。百合げ迷う。
風呂助 らちあかんのう。わしにまかせたが可うござんす。
とのさばりかかり、手もなくだきすくめてつかみ行く。仕丁しちょう手伝い、牛の背にあおむけざまに置く。
百合 ああれ。(ともだゆる。)
胴にまわし、ぐるぐると縄をく。お百合せなじておもてを伏す。黒髪さっと乱れて長く牛の鰭爪ひづめに落つ。
嘉伝次 宅膳どん、こりゃ、きものを着ていていかい。
宅膳 はあ、いずれ、やしろの森へ参って、式のごとく本支度に及びまするて。社務所には、既に、近頃このあたりの大地主になれらましたる代議士閣下をはじめ、お歴々衆、村民一同の事をお憂慮きづかいなされて、雨乞あまごいの模様を御見物にお揃いでござりますてな。
嘉伝次 その事じゃっけね。
初雄 皆、急ぐです。
管八 諸君努力せよかね、はははは。
一同、どやどやときかかる。
晃 (と来り、前途ゆくてに立って、きっと見るより、仕丁を左右へ払いのけ、はた、とにらんで、牛の鼻頭はなづらを取って向け、手縄たづなを、ぐい、とめて、ずかずか我家の前。腰なる鎌を抜くや否や、無言のまま、お百合のいましめの縄をふッと切る。)
百合 (一目見て)おお晃さん、(ところげ落ち、晃のうしろに身をかくして、帯の腰に取縋とりすがり)旦那様、いい処へ。貴下あなた。どうして、まあ、よく、まあ、早う帰って下さいました、ねえ。
晃 (百合を背後うしろかばい、利鎌とがま逆手さかてに、大勢をめつけながら、落着いたる声にて)ああ、夜叉ヶ池へ――山路やまみち、三の一ばかり上った処で、峰裏かすかに、遠く池ある処と思うあたりで、小児こどもをあやす、守唄の声が聞えた。……唄の声がこの月に、白玉しらたまの露をつないで、おどろの草もあやを織って、目にあおく映ったと思え。……伴侶つれが非常に感に打たれた。――山沢には三歳みッつになる小児がある。……里心が出て堪えられん。月の夜路よみち深山路みやまじかけて、知らない他国に※(「彳+淌のつくり」、第3水準1-84-33)※(「彳+羊」、第3水準1-84-32)さまようことはまた、来る年の首途かどでにしよう。帰り風がさっと吹く、と身体からだも寒くなったと云う。私もしきりに胸騒ぎがする。すぐに引返ひっかえして帰ったんだよ。(とおだやかに、百合に向って言い果てると、すッと立って、ひさごさかさに、月を仰いで、ごッと飲む。)
百合、のび上って、晃がひもを押えくびに掛けたる小笠おがさを取り、瓢を引く。晃はなすを、受け取ってかまちにおく。すぐに、鎌を取ろうとする。晃、手を振って放さず、お百合、しかとその晃の鎌を持つ手に縋りいる。
晃 帰れ、君たちア何をしている。
初雄 あらためて断るですがね、君、お気の毒だけれども、もう、村を立去ってくれたまえ。
晃 俺をこの村に置かんと云うのか。
初雄 しかりです。――御承知でもあるでしょう、また御承知がなければ、恐らく白痴ばかと言わんけりゃならんですが、このひでりです、旱魃かんばつです。……一滴の雨といえども、千金、むしろ万金の場合にですな。君が迷信さるる処のそのつりがねはです。一度でも鳴らさない時はすなわちその、村が湖になると云うです。湖になる……結構ですな。望む処である、です、から、して、からに、そのすなわちです。今夜からしておきなさらない事にしたいのです。鐘を撞かん事になってみる日になってみると、いたしてから、その、鐘を撞くための君はですな、名は権助と云うかどうかは分からんですが、ええん!
村二三 ひやひや。(と云う。)
村四五 撞木野郎しゅもくやろう丸太棒まるたんぼう。(と怒鳴る。)
初雄 えへん、君はこの村において、肥料こやしかすにもならない、更に、あえて、しかしてその、いささかも用のない人です。故にです、故にですな、我々一統が、鐘を、お撞きになるのを、お断りを、しますと同時に、村を、お立ち去りの事を宣告するのであるです。
村二三 そうだ、そうだとも。
晃 望む処だ。……鐘を守るとも守るまいとも、勝手にしろと言わるるから、俺には約束がある……義によって守っていたんだ。鳴らすなと言うに、誰がすき好んで鐘を撞くか。勿論、即時にここを去る。
村四五 出てけ、出て行け。(と異口同音くちぐち。)
晃 お百合こう。――(そのいそいそ見繕いするを見て)支度が要るか、跣足はだしで来い。いばらの路はおぶって通る。(と手を引く。)
お百合その袖にかばわれて、大勢の前をく。――忍んで様子を見たる、学円、この時そっとその姿をあらわす。
管八 (悪く沈んだ声して)おいおい、おい待て。
晃 (構わず、つかつかと行く。)
管八 待て、こら!
晃 何だ。(とつつと返す。)
管八 きさま、村のものは置いてけ。
晃 ちりひとっも持っちゃ行かんよ。
管八 そのおんなは村のものだ。一所に連れてく事は出来ないのだ。
晃 いや、この百合は俺の家内だ。
嘉伝次 黙りなさい。村のものじゃわい。


 

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