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夜叉ヶ池(やしゃがいけ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:49:40  点击:  切换到繁體中文

 
学円 道理こそあかりが消えて、ああ、蚊遣かやりの煙で、よくは見えぬが、……納戸に月がすらしい。――お待ちなさい。今、言いかけた越前の話というのは、縁の下で牡丹餅ぼたもちが化けたのです。たとえば、ここでわしがものを云うと、その通り、縁の下で口真似をするやつがある。村中が寄ってたかって、口真似するは何ものじゃ。狐か、と聞くと、違う。と答える。狸か、違う、かわうそか、違う、魔か、天狗てんぐか、違う、違う。……しまいに牡丹餅か、と尋ねた時、おうと云って消えせたという――その話をする気であったが、……まだ外に、月が聞くと言わるるから、出直して、別の談話はなしをする気になった。お聞きなさい。これは現在一昨年おととしの夏――
一人、わしの親友に、何かかねて志す……国々に伝わった面白い、またかわった、不思議な物語を集めてみたい。日本中残らずとは思うが、この夏は、山深い北国ほっこく筋の、谷を渡り、峰を伝って尋ねよう、と夏休みに東京を出ました。――それっきり、行方が知れず、音沙汰おとさたなし。親兄弟もある人物、出来る限り、手を尽くして捜したが、皆目跡形あとかたが分らんから、われわれ友だちの間にも、最早もはや世にない、死んだものと断念あきらめて、都を出た日を命日にする始末。いや、一時は新聞沙汰、世間でえらい騒ぎをした。……
自殺か、怪我けがか、変死かと、果敢はかない事に、寄ると触ると、たもとを絞って言い交わすぞ! あとを隠すにも、死ぬのにも、何の理由もない男じゃに、貴女、世間には変った事がありましょうな。……
百合 ああ、貴客あなた、貴客、難有ありがとう存じます。……ほんとうに難有う存じました。(とにべなく言う。)
学円 そんなに礼を云うて、茶代のかわりになるのですかい。
百合 もう沢山でございます。
学円 それでは面白かったのじゃね。
百合 ……おもしろいのは、前の牡丹餅の化けた方、あとのは沢山でございます。
学円 さて談話はなしはこれからなんじゃ、今のはほんの前提まえおきですが。
百合 どうぞ、……結構でございますから、……そして貴客、もう暗くなります、お宿をお取り遊ばすにも御不自由でございましょうから。……
学円 いやいや、談話の模様では、宿をする事もあると言われた。わしも一つ泊めて下さい、――この談話はがありますから。
百合 先刻さっきは、貴客、女の口から泊りの事なぞ聞くんじゃない。……そのことばについて、宿の無心でもされたらどうするとおっしゃって。……もう、清いすずしいお方だと思いましたものを、……女ばかり居る処で、宿貸せなぞと、そんな事、……もう、私は気味が悪い。
学円 気味が悪いな? 牡丹餅の化けたのではないですが。
百合 こんな山家は、おばけより、都の人が可恐こおうござんす、……さ、貴客どうぞ。
学円 これは、押出されるはひどい。(不承々々に立つ。)
百合 (続いて出で、押遣おしやるばかりに)どうぞ、お立ち下さいまし。
学円 婦人ばかりじゃ、ともこうも言われぬか。鉢の木ではないのじゃが、蚊にく柴もあるものを、……常世つねよの宿なら、こうなさけなくは扱うまい。……雪の降らぬがせめてもじゃ。
百合 真夏土用の百日ひでりに、たとい雪が降ろうとも、……(と立ちながら、納戸の方をじって、学円に瞳を返す。)御機嫌よう。
学円 失礼します。
晃 (蚊遣かやりの中に姿をあらわし)山沢、山沢。(ときっぱり呼ぶ。)
学円 おい、萩原、萩原か。
百合 あれ、貴方あなた。(と走り寄って、出足を留めるように、膝を突き手に晃の胸をおさえる。)
晃 帰りやしない、大丈夫、大丈夫。(と低声こごえに云って)何とも言いようがない、山沢、まあ――まあ、こちらへ。
学円 わしも何とも言いようが無い。十に九ツ君だろうと、今ね、顔を見た時、また先刻さっきからの様子でもそう思うた、けれども、余り思掛けなし――(引返してかまちきたり)第一、その頭はどうしたい。
晃 頭もどうかしていると思って、まあ、許して上ってくれ。
学円 ほこりばかりじゃ、失敬するぞ、(と足をいたなりで座に入る)いや、その頭も頭じゃが、白髪はどうじゃ、白髪はよ?……
晃 これか、谷底にめばといって、大蛇うわばみに呑まれた次第わけではない、こいつは仮髪かつらだ。(脱いで棄てる。)
学円 ははあ……(とお百合をそっと見て)勿論じゃな、その何も……
晃 こりゃ、百合と云う。
お百合、座に直った晃の膝に、そのまま俯伏うっぷしてすがっている。
学円 お百合さんか。細君も……何、奥方も……
晃 泣く奴があるか、涙を拭いて、整然ちゃんとして、御挨拶ごあいさつしな。
と言ううちに、きまり悪そうに、お百合はと納戸へかくれる。
晃 君に背中をたたかれて、僕の夢が覚めた処で、東京に帰るかって憂慮きづかいなんです。
学円 (お百合の優しさに、涙もろく、ほろりとしながら)いや、わしの顔を見たぐらいで、萩原――この夢は覚めんじゃろう。……何、いい夢なら、あえて覚めるには及ばんのじゃ……しかし萩原、夢のうちにも忘れまいが、東京の君の内では親御はじめ、
晃 むむ。
学円 君の事で、多少、それは、寿命は縮められたか分らんが、皆まず御無事じゃ。
晃 ああ、そうか。難有ありがたい。
学円 わしに礼には及ばない。
晃 実に済まん!
学円 さてこれはどうしたわけじゃ。
晃 夢だと思って聞いてくれ。
学円 勿論、夢だと思うておる。……
晃 くわしい事は、夜すがらにも話すとして、知ってる通り……僕は、それ諸国の物語を聞こうと思って、北国筋を歩行あるいたんだ。ところが、自身……僕、そのものが一条ひとくだりの物語になった訳だ。――魔法つかいは山を取って海に移す、人間を樹にもする、石にもする、石を取っての葉にもする。木の葉をかえるにもするという、……君もここへ来たばかりで、ものかたりの中の人になったろう……僕はもう一層、その上を、物語、そのものになったんだ。
学円 薄気味の悪い事を云うな。では、君の細君は、……(云いつつはばかる。)
晃 (納戸を振向く)衣服きものでも着換えるか、髪などなでつけているだろう。……ふすま一重だから、背戸へ出た。……
学円 (伸上り納戸越に透かして見て)おい、水があるか、あしの葉の前に、くしにも月の光がして、仮髪かつらをはずした髪のつや、雪国と聞くせいか、まだ消残って白いように、襟脚、脊筋も透通る。……すごいまで美しいが、……何か、細君は魔法つかいか。
晃 可哀想かわいそうな事を言え、まさか。
学円 ふん。
晃 この土地、この里――この琴弾谷が、一個ひとつの魔法つかいだと云うんだよ。――
山沢、君は、この山奥の、夜叉ヶ池というのを聞いたか。
学円 聞いた。しかもその池を見ようと思って、今庄いまじょう駅から五里ばかり、わざわざここまで入込いりこんだのじゃ。
晃 僕も一昨年おととし、その池を見ようと思って、ただ一人、この谷へ入ったために、こういう次第になったんだ。――ここに鐘がある――
学円 ある! 何か、明六つ、暮六つ……丑満うしみつ、と一昼夜に三度鳴らす。その他は一切音をさせないさだめじゃと聞いたが。
晃 そうだよ。定として、他は一切音をさせてはならない、と一所にな、一日一夜に三度ずつは必ず鳴らさねばならないんだ。
学円 それは?
晃 ここに伝説がある。昔、人と水と戦って、この里の滅びようとした時、えつ大徳泰澄だいとくたいちょう行力ぎょうりきで、竜神をその夜叉ヶ池に封込ふうじこんだ。竜神の言うには、人のおぼれ、地の沈むを救うために、自由を奪わるるは、是非に及ばん。そのかわりに鐘を鋳て、ふもとに掛けて、昼夜に三度ずつ撞鳴つきならして、我を驚かし、その約束を思出させよ。……我が性は自由を想う。自在を欲する。気ままを望む。ともすれば、ちかいを忘れて、狭き池の水をして北陸七道にみなぎらそうとする。我が自由のためには、世の人畜の生命など、ものの数ともするものでない。が、約束はたがえぬ、誓は破らん――但しその約束、その誓を忘れさせまい。思出させようとするために、鐘をく事を怠るな。――山沢、そのために鋳た鐘なんだよ。だから一度でも忘れると、たちどころに、大雨たいう大雷だいらい、大風とともに、夜叉ヶ池から津浪が起って、村も里も水の底に葬って、竜神は想うままに天地をすると……こう、この土地で言伝える。……そのために、明六つ、暮六つ、丑満つ鐘を撞く。……
学円 (乗出でて)面白い。
晃 いや、面白いでは済まない、大切な事です。
学円 いかにも大切な事じゃ。
晃 ところで、その鐘を撞く、鐘撞き男を誰だと思う。
学円 君か。
晃 僕だよ。すなわち萩原晃がその鐘撞夫かねつきなんだよ。
学円 はてな。
晃 ここに小屋がある……


 

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