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夜叉ヶ池(やしゃがいけ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:49:40  点击:  切换到繁體中文

 
鯉七 ちと申つかった事があって、里へ参る路ではあれども、若君のお使、何はいてもお供しょう。姫様、お喜びの顔が目に見える。われらもおかげで面目を施します、さあ、御坊。
蟹五郎 さあ、御坊。
鯰入 (ふと、くなくなとなって進まず。)しばらく。まず、しばらく。……
鯉七 御坊、お草臥くたびれなら、手を取りましょう。
蟹五郎 何と腰を押そうかい。
鯰入 いやいや疲れはしませぬ。尾鰭おひれはのらのらと跳ねるなれども、ここに、ふと、世にも気懸きがかりが出来たじゃまで。
鯉七 気懸りとは? 御坊。
鯰入 ここまで辿たどって、いざ、お池へ参ると思えば、急にこの文箱ふばこが、身にこたえて、ずんと重うなった。その事じゃ。
鯉七 恋の重荷と言いますの。お心入れの御状なれば、池に近し、御双方お気が通って、自然と文箱にこもりましたか。
蟹五郎 またかい。姫様ひいさまから、御坊へお引出ものなさる。……あの、黄金こがね白銀しろがね、米、あわわきこぼれる、石臼いしうす重量おもみが響きますかい。
鯰入 (悄然しょうぜんとして)いや、わしが身にこたえた処は、こりゃ虫が知らすと見えました。御褒美ごほうびに遣わさるる石臼なればけれども==この坊主を輪切りにして、スッポン煮を賞翫しょうがんあれ、姫、お昼寝の御目覚ましに==と記してあろうも計られぬ。わあ、可恐おそろしや。(とわなわなと蘆の杖とともにふるい出す。)
鯉七 何でまた、そのような飛んだ事を? 御坊。……
鯰入 いやいや、急に文箱ふばこの重いにつけて、ふと思い出いたわしが身の罪科がござる。さて、言い兼ねましたが打開けて恥を申そう。(とうなじをすくめて、頭をで)……近頃、此方衆こなたしゅうの前ながら、やかた、剣ヶ峰千蛇ヶ池へ――熊に乗って、黒髪を洗いに来た山女の年増としまがござった。裸身はだかみの色の白さに、つい、とろとろとなって、面目なや、ぬらり、くらりと鰭を滑らかいてまつわりましたが、フトお目触めざわりとなって、われら若君、もっての外の御機嫌じゃ。――処をこの度の文づかい、泥に潜った閉門中、ただおおせつけの嬉しさに、うかうかと出て参ったが、心付けば、早や鰭の下がくすぽったい。(とまた震う。)
蟹五郎 かッ、かッ、かッ、(と笑い)御坊、おまめです。あやかりたい。
鯰入 笑われますか、なさけない。生命いのちとまでは無うても、鰭、尾を放て、ひげを抜け、とほどには、おふみに遊ばされたに相違はござるまい。……これは一期いちごじゃ、何としょう。(と寂しく泣く。)
鯉、蟹、これを見てささやき、うなずく。
鯉七 いや、御坊、無い事とも言われませぬ。昔も近江街道を通る馬士まごが、橋の上に立った見も知らぬおんなから、十里さきの一里塚の松の下のおんなへ、と手紙を一通ことづかりし事あり。途中気懸りになって、そっとその封じ目を切って見たれば、==妹御へ、ひとつ、この馬士のはらわた一組参らせそろ==としたためられた――何も知らずに渡そうものなら、腹をかるる処であったの。
鯰入 はあ、(とどうと尻餅つく。)
蟹五郎 お笑止だ。かッかッかッ。
鯉七 さいわい、五郎がはさみを持ちます……そっと封を切って、御覧がかろう。
鯰入 やあ、何と、……それを頼みたいばッかりに恥をさらした世迷言よまいごとじゃ。……嬉しや、大目に見て下さるかのう。
蟹五郎 もっとも、もっとも。
鯉七 また……(と声をひそめて)恋しゆかしのお文なれば、そりゃ、われわれどもがなお見たい。
鯰入 (わななきながら、文箱を押頂き、紐を解く。)
鯉、蟹ひしと寄る。ふたを放ってひとしく見る。
鯰入 やあ!
鯉七 ええええ。
蟹五郎 やあやあやあ!
鯰入 文箱ふばこの中は水ばかりよ。
と云う時、さっと、清き水流れあふる。
鯉七 あれあれあれ、姫様ひいさまが。
はっと鯰入とともに泳ぐ形に腹ばいになる。蟹はひざまずいて手をつかう。――迫上せりあげにて――
夜叉ヶ池の白雪姫。雪なすうすもの、水色の地にくれないほのおを染めたる襲衣したがさね黒漆こくしつ銀泥ぎんでいうろこの帯、下締したじめなし、もすそをすらりと、黒髪長く、丈に余る。しろがねの靴をはき、帯腰に玉のごとく光輝く鉄杖てつじょうをはさみ持てり。両手にひろげし玉章たまずささっと繰落して、地摺ちずりに取る。
右に、湯尾峠の万年姥まんねんうば。針のごとき白髪しらが朽葉色くちばいろ帷子かたびら赤前垂あかまえだれ
左に、腰元、木の芽峠の奥山椿、萌黄もえぎ紋付もんつき、文金の高髷たかまげの乙女椿の花を挿す。両方に手をいて附添う。
十五夜の月出づ。
白雪 ふみを読むのに、月のあかりは、もどかしいな。
姥 御前様おんまえさま、お身体からだの光りで御覧ずるがうござります。
白雪 (下襲したがさねを引いて、袖口の炎をかざし、やがて読果てて恍惚うっとりとなる。)
椿 姫様ひいさま
姥 もし、御前様おんまえさま
白雪 可懐なつかしい、優しい、嬉しい、お床しい音信たよりを聞いた。……うば、私は参るよ。
姥 たまたまふもとへお歩行ひろいが。
椿 もうお帰り遊ばしますか。
白雪 どこへ?……(と聞返す。)
姥 お住居すまいへ。
白雪 何?
姥 夜叉ヶ池へでござりましょう。
白雪 あれ、お前は何を言う……私の行くのは剣ヶ峰だよ。
一同 剣ヶ峰へ、とおっしゃりますると?
白雪 聞かずと大事ないものを――千蛇ヶ池とは知れた事――このおふみのとこへさ。(と巻戻し懐中ふところに納めていだく。)
姥 (居直り)また……我儘わがままを仰せられます。お前様、ここにつりがねがござります。
白雪 む、(とまなじりをあげて、鐘楼をきっと見る。)
姥 お忘れはなさりますまい。山ながら、川ながら、御前様おんまえさまが、お座をお移しなさりますれば、幾万、何千の生類の生命いのちを絶たねばなりませぬ。剣ヶ峰千蛇ヶ池の、あの御方様とても同じ事、ここへお運びとなりますと、白山谷は湖になりますゆえ、そのために彼方かなたからも御越の儀はかないませぬ。――うばはじめ胸を痛めます。……おいとしい事なれども、是非ない事にござります。
白雪 そんな、理窟を云って……姥、お前は人間の味方かい。
姥 へへ、(嘲笑あざわらい)尾のない猿ども、誰がかばいだていたしましょう。……憎ければとて、浅ましければとて、気障きざなればとて、たとい仇敵かたきなればと申して、約束はかえられませぬ、誓を破っては相成りませぬ。
白雪 誓盟ちかいは、誰がしたえ。
姥 御先祖代々、近くは、両、親御様まで、第一お前様に御遺言ではございませぬか。
白雪 知っています。(とつんとひぞる。)
姥 もし、お前様、その浅ましい人間でさえ、約束を堅く守って、五百年、七百年、盟約ちかいを忘れぬではござりませぬか。盟約を忘れませねばこそ、朝六つ暮六つ丑満つ、と三度の鐘をたやしませぬ。この鐘の鳴りますうちは、村里を水の底には沈められぬのでござります。
白雪 ええ、うらめしい……この鐘さえなかったら、(とじって、すらりと立直り)みなに、ここへ来いとお言い。
椿 (立って一方を呼ぶ。)召します。姫様ひいさまが召しますよ。
鯉七 (立上がり一方を)やあ、いずれも早く。(と呼ぶ。)
眷属けんぞくばらばらと左右に居流る。一同ものを持てり。扮装いでたちおもいおもい、よろいつけたるもあり、髑髏どくろかしらに頂くもあり、百鬼夜行のていなるべし。
虎杖 虎杖入道いたどりにゅうどう
鯖江 鯖江さばえノ太郎。
鯖波 鯖波さばなみノ次郎。
この両個、「兄弟のもの。」と同音に名告なのる。
塚 十三塚の骨寄鬼こつよせおに
蟹五郎 藪沢やぶさわのお関守は既に先刻より。
椿 そのほか、夥多あまた道陸神どうろくじんたち、こだますだま、魑魅ちみ魍魎もうりょう
影法師、おなじ姿のもの夥多あり。目も鼻もなく、あたまからただ灰色の布をかぶる。
影法師 影法師も交りまして。
とこの名のる時、ちらちらと遠近おちこちに陰火燃ゆ。これよりして明滅す。
鯉七 身内の面々、一同参り合せました。
鯰入 はばかりながら法師もこれに。……
白雪 おお、遠い路を、大儀。すぐにお返事を上げましょうね、そのために皆を呼びましたよ。
姥 や、彼方あなたへお返事につきまして、いずれもを召しました?――仰せつけられまする儀は?
白雪 うば、どう思うても私はく。剣ヶ峰へ行かねばならぬ。鐘さえなくば盟約ちかいもあるまい……皆が、あの鐘、取って落して、微塵みじんになるまで砕いておしまい。
姥 ええええ仰せなればと云うて、いずれも必ずお動きあるな。(まなこを光らし、姫をみつめて)まだそのようなわやくをおっしゃる。……身うちの衆をお召出し、お言葉がござりましては、わやくが、わやくになりませぬ。天の神々、きこえも可恐おそれじゃ。……かずの人間の生命いのちを断つ事、きっとおたしなみなさりませい。
白雪 人の生命のどうなろうと、それを私が知る事か!……恋には我身の生命も要らぬ。……姥、堪忍してかしておくれ。
姥 ああ、お最惜いとしい。が、なりますまい。……もう多年しばらく御辛抱なさりますと、三十年、五十年とは申しますまい。今の世は仏の末法、ひじり澆季ぎょうき盟誓ちかいも約束も最早や忘れておりまする。やッと信仰をつなぎますのも、あの鐘を、鳥のつついた蔓葛つたかずらつるしましたようなもの、鎖もきずなも切れますのは、まのあたりでござります。それまでおこらえなさりまし。
白雪 あんな気の長い事ばかり。あこがれ慕う心には、冥土よみじの関を据えたとて、のあくるのも待たりょうか。し、可し、みなかずば私が自分で。(と気が入る。)
椿 あれ、お姫様。
姥 これは何となされます……取棄てて大事ない鐘なら、お前様のお手は待たぬ……身内に仰せまでもない。何、唐銅からかねの八千貫、こうせさらぼえた姥が腕でも、指で挟んで棄てましょうが、重いは義理でござりまするもの。
白雪 義理やおきては、人間の勝手ずく、我と我が身をいましめの縄よ。……鬼、畜生、夜叉、悪鬼、毒蛇と言わるる私が身に、袖とて、つまとて、恋路をふさいで、遮る雲の一重ひとえもない!……先祖は先祖よ、親は親、お約束なり、盟誓ちかいなり、それは都合で遊ばした。人間とても年がてば、ないがしろにする約束を、一呼吸ひといき早く私が破るに、何にはばかる事がある! ああ、恋しい人のふみを抱いて、私は心も悩乱した、姥、許して!
姥 成程、お気が乱れましたな。あけ六つ暮六つただ一度、今宵この丑満一つも、人間が怠れば、その時こそは瞬くも待ちませぬ。お前様を、この姥がおぶい申して、お靴に雲もつけますまい。人は死のうと、おぼれようと、峰は崩れよ、ふもとは埋れよ。剣ヶ峰まで、ただ一飛び。……この鐘をうちに、盟誓をお破り遊ばすと、諸神、諸仏が即座のおたたり、それを何となされます!
鯉七 当国には、板取いたどりかえる九頭竜くずりゅうながれを合せて、日野川の大河。
蟹五郎 美濃の国には、名だたる揖斐いび川。


 

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