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草迷宮(くさめいきゅう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 13:07:19  点击:  切换到繁體中文


 つい夏の取着とッつきに、御主人のいいつけで、清酒すみざけをの、お前様、沢山たんとでもござりませぬ。三樽みたるばかり船に積んで、船頭殿が一人、嘉吉めが上乗うわのりで、この葉山の小売みせへ卸しに来たでござります。
 葉山森戸などへ三崎の方から帰ります、この辺のお百姓や、漁師たち、顔を知ったものが、途中から、のっけてくらっせえ、明いてる船じゃ、と渡場わたしばでも船つきでもござりませぬ。海岸の岩の上や、いその松の根方から、おおいおおい、と板東声ばんどうごえで呼ばり立って、とうとう五人がとこ押込みましたは、以上七人になりました、よの。
 どれもどれも、ろくでなしが、得手に帆じゃ。船は走る、口はすべる、なぎはよし、大話しをし草臥くたぶれ、嘉吉めは胴のの横木を枕に、踏反返ふんぞりかえって、ぐうぐう高鼾たかいびきになったげにござります。
 路になだはござりませぬが、樽の香が芬々ぷんぷんして、たこも浮きそうな凪のさ。せめて船にでも酔いたい、と一人が串戯じょうだんに言い出しますと、何と一樽けまいか、飲むことは銘々が勝手次第、勝負の上から代銭を払えばい、面白い、るべいじゃ。
 煙管きせるの吸口ででも結構に樽へ穴を開けるてあいが、大びらに呑口切って、お前様、お船頭、弁当箱のあきはなしか、といびつなり切溜きりだめを、大海でざぶりとゆすいで、その皮づつみに、せせり残しの、醤油かすを指のさきでめながら、まわしのみのあおっきり。
 天下晴れて、財布のひもを外すやら、胴巻を解くやらして、賭博なぐさみをはじめますと、お船頭が黙ってはおりませぬ。」
叱言こごとを云って留めましたか。さすがは船頭、字で書いても船のかしらだね。」
 と真顔で法師の言うのを聞いて、うばは、いかさまな、その年少としわかで、出家でもしそうな人、とさもあわれんだ趣で、
「まあ、お人のい。なるほど船頭を字に書けば、船の頭でござりましょ。そりゃもう船の頭だけに、きまり処はちゃんと極って、間違いのない事をいたしました。」
「どうしたかね。」
「五人であいさいの目に並んでおります、真中まんなかへ割込んで、まず帆を下ろしたのでござります。」
 と莞爾にっこりして顔を見る。
 いささかもその意を得ないで、
「なぜだろうかね。」
「この追手じゃ、帆があっては、丁と云う間に葉山へ着く。ふわふわと海月くらげ泳ぎに、船を浮かせながらゆっくり遣るべい。
 その事よ。四海波静かにて、波も動かぬ時津風、枝を鳴らさぬ御代みよなれや、と勿体ない、祝言の小謡こうたいを、聞噛ききかじりにうたう下から、勝負!とそれ、おあし取遣とりやり。板子の下が地獄なら、上も修羅道しゅらどうでござります。」
「船頭も同類かい、何の事じゃ、」
 と法師はあらたになみなみとある茶碗を大切そうに両手で持って、苦笑いをするのであった。
「それはお前様、あのてあいと申しますものは、……まあ、海へ出て岸をば※(「目+句」、第4水準2-81-91)みまわして御覧ごろうじまし。いわの窪みはどこもかしこも、賭博ばくちつぼに、あわびふたかにの穴でない処は、皆意銭あないちのあとでござります。珍しい事も、不思議な事もないけれど、その時のは、はい、嘉吉に取っては、あやかしが着きましたじゃ。のう、便船びんせんしょう、便船しょう、と船をなぎさへ引寄せては、巌端いわばなから、松の下から、飜然々々ひらりひらりと乗りましたのは、魔がさしたのでござりましたよ。」

       六

「魅入られたようになりまして、ぐっすり寝込みました嘉吉の奴。浪の音は耳れても、磯近いそぢかへさきが廻って、松の風に揺り起され、肌寒うなって目を覚ましますと、そのお前様……体裁ていたらく
 山へあがったというではなし、たかだか船の中の車座、そんな事は平気な野郎も、酒樽の三番叟さんばそう、とうとうたらりたらりには肝をつぶして、(やい、此奴等こいつら、)とはずみに引傾ひっかたがります船底へ、仁王立にふみごたえて、わめいたそうにござります。
 騒ぐな。
 騒ぐまいてや、やい、嘉吉、こう見た処で、二と一両、貴様にかしのない顔はないけれど、主人のものじゃ。引負ひきおいをさせてまで、勘定を合わしょうなんど因業いんごうな事は言わぬ。場銭を集めて一樽買ったら言分あるまい。代物さえ持って帰れば、どこへ売っても仔細しさいはない。
 なるほど言われればその通り、言訳の出来ぬことはござりませぬわ、のう。
 銭さえ払えばいとして、船頭やい、船はどうする、と嘉吉が云いますと、ばら銭をにぎったこぶし向顱巻むかうはちまきの上さ突出して、半だ半だ、何、船だ。船だ船だ、と夢中でおります。
 嘉吉が、そこで、はい、を握って、ぎっちらこ。幽霊船のに取られたような顔つきで、漕出こぎだしたげでござりますが、酒のにおいに我慢が出来ず……
 御繁昌ごはんじょう旦那だんなから、一杯おみきを遣わされ、と咽喉のどをごくごくさして、口を開けるで、さあ、飲まっせえ、とぎにかかる、と幾干いくらか差引くか、と念を推したげで、のう、ここらはたしかでござりました。
 幡随院長兵衛じゃ、酒を振舞うて銭を取るか。しみったれたことを云うな、と勝った奴がいきります。
 お手渡てわたしで下される儀は、皆の衆も御面倒、これへ、と云うて、あか柄杓びしゃくを突出いて、どうどうと受けました。あの大面おおづらが、お前様、片手で櫓を、はい、押しながら、その馬柄杓ばびしゃくのようなもので、片手で、ぐいぐいとあおったげな。
 酒は一樽打抜ぶちぬいたで、ちっとも惜気おしげはござりませぬ。海からでも湧出すように、大気になって、もう一つやらっせえ、丁だ、それ、心祝いに飲ますべい、代は要らぬ。
 帰命頂礼きみょうちょうらいさいころ明神の兀天窓はげあたま、光る光る、と追従ついしょう云うて、あか柄杓へまた一杯、煽るほどに飲むほどに、櫓拍子ろびょうしが乱になって、船はぐらぐら大揺れ小揺れじゃ、こりゃならぬ、賽がすわらぬ。
 ええ、気に入らずば代ってげさ、と滅多押しに、それでも、大崩壊おおくずれの鼻を廻って、出島の中へ漕ぎ入れたでござります。
 さあ、内海うちうみの青畳、座敷へ入ったもおんなじじゃ、と心が緩むと、嘉吉が、酒代を渡してくれ、勝負が済むまで内金を受取ろう、と櫓を離した手におあしを握ると、懐へでも入れることか、片手に、あか柄杓びしゃくを持ったなりで、チョボ一の中へ飛込みましたが。
 はて、河童かっぱ野郎、身投みなげするより始末の悪さ。こうなっては、お前様、もう浮ぶ瀬はござりませぬ。
 取られて取られて、とうとう、のう、御主人へ持ってく、一樽のお代をみなにしました。処で、自棄やけじゃ、賽の目がとおに見えて、わいらの頭が五十ある、浜がぐるぐる廻るわ廻るわ。さあ漕がば漕げ、殺さば殺せ、とまたふんぞった時分には、ものの一斗ぐらい嘉吉一人で飲んだであろ。七人のあたまさえ四斗樽、これがあらかた片附いて、浜へ樽を上げた時、重いつもりで両手をかけて、えい、と腰を切った拍子抜けに、向うへのめって、樽が、ばっちゃん、嘉吉がころり、どんとのめりましたきり、早や死んだも同然。
 船はそれまで、ぐるりぐるりと長者園の浦を廻って、ちょうどあの、活動写真の難船見たよう、波風の音もせずに漂うていましたげな。両膚脱りょうはだぬぎの胸毛や、大胡坐おおあぐらの脛の毛へ、夕風がさっとかかって、悚然ぞっとして、みんなが少し正気づくと、一ツ星も見えまする。大巌おおいわの崖が薄黒く、目の前へ蔽被おっかぶさって、物凄ものすごうもなりましたので、ふんどしめ直すやら、膝小僧ひざっこぞうを合わせるやら、お船頭が、ほういほうい、と鳥のような懸声で、浜へ船をつけまして、正体のない嘉吉をぐる。と、むっくり起きたが、その酒樽の軽いのに、本性たがわず気落きおちがして、右の、倒れたものでござりますよ。はい。」

       七

仰向様あおのけざまに、火のような息を吹いて、身体からだから染出しみだします、酒が砂へ露を打つ。晩方の涼しさにも、蚊や蠅が寄って来る。
 やっこは、っても、叩いても、おきることではござりませぬがの。
 かかりあいのがれぬ、と小力こぢからのある男が、力を貸して、船頭まじりに、このてあいとてたしかではござりませなんだ。ひょろひょろしながら、あとのまず二たるは、になって小売みせへ届けました。
 嘉吉の始末でござります。それなり船の荷物にして、積んで帰れば片附きますが、死骸しがいではない、酔ったもの、めた時の挨拶が厄介じゃ、とお船頭はにげを打って、帆を掛けて、海のもやへと隠れました。
 どの道訳を立ていでは、主人方へ帰られる身体ではござりませぬで、一まず、秋谷の親許おやもとへ届ける相談にかかりましたが、またこのお荷物が、御覧の通りの大男。それに、はい、のめったきり、てこでも動かぬにこうじ果てて、すっぱすっぱ煙草たばこを吹かすやら、お前様、くしゃみをするやら、向脛むかはぎたかる蚊をかかと揉殺もみころすやら、泥に酔った大鮫おおざめのような嘉吉を、浪打際に押取巻おっとりまいて、小田原評定ひょうじょう。持て余しておりました処へ、ちょうど荷車をきまして、藤沢から一日みち、この街道つづきの長者園の土手へ通りかかりましたのが……」
 茜色あかねいろ顱巻はちまきを、白髪天窓しらがあたまにちょきり結び。結び目の押立おったって、威勢のいのが、弁慶がにの、濡色あかきはさみに似たのに、またその左の腕片々かたかた、へし曲って脇腹へ、ぱツとけ、ぐいと握る、指とてのひらは動くけれども、ひじ附着くッついてちっとも伸びず。あかがねで鋳たような。……その仔細しさいを尋ぬれば、心がらとは言いながら、さんぬる年、一ぜん飯屋でぐでんになり、冥途めいどの宵を照らしますじゃ、とろくでもない秀句を吐いて、井桁いげたの中に横木瓜もっこう、田舎の暗夜やみには通りものの提灯ちょうちんを借りたので、蠣殻道かきがらみちを照らしながら、安政の地震に出来た、古い処を、鼻唄で、つちが崩れそうなひょろひょろ歩行あるき。い心持に眠気がさすと、邪魔なあかりひじにかけて、腕を鍵形かぎなりに両手を組み、ハテ怪しやな、おのれ人魂ひとだまか、金精かねだまか、正体をあらわせろ! とトロンコの据眼すえまなこで、提灯を下目ににらむ、とぐたりとなった、並木の下。地虫のようないびきを立てつつ、大崩壊に差懸さしかかると、海が変って、太平洋をあおる風に、提灯のろうが倒れて、めらめらと燃えついた。沖の漁火いさりびを袖に呼んで、胸毛がじりじりに仰天し、やあ、コン畜生、火の車め、まだはええ、と鬼と組んだ横倒れ、転廻ころがりまわって揉消もみけして、生命いのちに別条はなかった。が、その時の大火傷おおやけど、享年六十有七歳にして、生まれもつかぬ不具かたわもの――渾名あだなを、てんぼうがに宰八さいはちと云う、秋谷在の名物親仁おやじ
「……わしじじい殿でござります。」
 とうばは云って、微笑ほほえんだ。
 小次郎法師は、寿ことぶくごとく、一揖いちゆうして、
「成程、じょう殿だね。」と祝儀する。
「いえ、もう気ままものの碌でなしでござりますが、おかげさまで、至って元気がようござりますので、御懇意な近所へは、進退かけひきいやじゃ、とのう、葉山を越して、日影から、田越逗子たごえずしの方へ、遠くまで、てんぼうの肩に背負籠しょいかごして、栄螺さざえや、とこぶし、もろあじの開き、うるめいわしの目刺など持ちましては、飲代のみしろにいたしますが、その時はお前様、村のもとの庄屋様、代々長者の鶴谷つるや喜十郎様、」
 と丁寧に名のりを上げて、
「これがわしども、おしゅ筋に当りましての。そのおやしきの御用で、東海道の藤沢まで、買物に行ったのでござりました。
 一月に一度ぐらいは、種々いろいろ入用のものを、塩やら醤油やら、小さなものは洋燈ランプの心まで、一車ひとくるまずつ調えさっしゃります。
 横浜は西洋臭し、三崎は品が落着かず、界隈かいわいは間に合わせのにわか仕入れ、しけものが多うござりますので、どうしても目量めかたのある、ずッしりしたお堅いものは、昔からの藤沢に限りますので、おねだんも安し、徳用向きゆえ、御大家の買物はまた別で、」
 と姥は糸を操るような話しぶり。心のどかに口をまわして、自分もまたお茶参った。
 しばらく往来もなかったのである。

       八

「……おう、宰八か。おじい、在所へ帰るだら、これさ一個ひとつ産神様うぶすなさまへ届けてくんな。ちょうどはい、その荷車はさいわいだ、と言わっしゃる。
 見ると、お前様、嘉吉めが、今申したそのていでござりましょ。
 おんなじ産神様氏子うじこ夥間なかまじゃ。承知なれど、わしはこれ、手がこの通り、思うように荷が着けられぬ。御身おみたちあんばいよう直さっしゃい、荷の上へせべい、とじじいどのが云いますとの。
 あにい、そのまま上へ積まっしゃい、と早や二人して、嘉吉めが天窓あたまと足を、引立てるではござりませぬか。
 爺どのが、待たっしゃい、鶴谷様のお使いで、綿をいかいこと買うて来たが、醤油樽や石油缶の下積になっては悪かんべいと、上荷に積んであるもんだ。喜十郎旦那がとこで、ふっくりと入れさっしゃる綿の初穂へ、その酒浸しの怪物ばけものさ、おっころばしては相成んねえ、柔々やわやわ積方も直さっしゃい、と利かぬ手のこぶしを握って、一力味ひとりきみ力みましけ。
 七面倒な、こうすべい、と荒稼ぎの気短徒きみじかてあいじゃ。お前様、うわかがりの縄の先を、嘉吉が胴中どうなかゆわへ附けて、車の輪に障らぬまでに、横づけに縛りました。
 賃銭の外じゃ、落しても大事ない。さらば急いで帰らっしゃれ。しゃんしゃんと手をたたいて、賭博ばくちに勝ったものも、負けたものも、飲んだ酒と差引いて、誰も損はござりませぬ。い機嫌のそそり節、尻までまくったすねの向く方へ、ぞろぞろと散ったげにござります。
 爺どのは、どっこいしょ、と横木に肩を入れ直いて、てんぼうの片手押しは、胸が力でござります。人通りが少いで、露にひろがりました浜昼顔の、ちらちらと咲いた上を、ぐいとひき出して、それから、がたがた。
 大崩おおくずれまで葉山からは、だらだらの爪先上つまさきあがり。後はなぞえに下り道。車がはずんで、ごろごろと、わしがこの茶店の前まで参った時じゃ、と……申します。
 やい、枕をくれ、枕をくれ、と嘉吉めがわめくげな。
 何ぬかすぞい、この野郎、贅沢ぜいたくべいこくなてえ、狐店きつねみせの白ッ首と間違えてけつかるそうな、とぶつぶつ口叱言くちこごとを申しましての、爺どのが振向きもせずに、ぐんぐんいたと思わっしゃりまし。」
「何か、夢でも見たろうかね。」
「夢どころではござりますか、お前様、直ぐにしめ殺されそうな声を出して、苦しい、苦しい、鼻血が出るわ、目がまうわ、天窓あたまを上へ上げてくれ。やい、どうするだ、さあ、殺さば殺せ、がば漕げ、とまだ夢中で、嘉吉めは船に居る気でおります、よの。
 胴中の縄がゆるんで、天窓がつちへ擦れ擦れに、さかさまになっておりますそうな。こりゃもっともじゃ、のう、たっての苦悩くるしみ
 酒がのぼって、めずにいたりゃ本望だんべい、わしら手が利かねえだに、もうちっとだ辛抱せろ、とぐらぐらと揺り出しますと、死ぬる、死ぬる、助け船引[#「引」は小書き]と火を吹きそうにわめいた、とのう。

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