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海異記(かいいき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 12:23:36  点击:  切换到繁體中文



       五

「あれさ、ちょいと、用がある、」
 と女房は呼止める。
 やっこげ足を向うのめりに、うしろへ引かれた腰附こしつきで、
「だって、号外が忙しいや。あ、号外ッ、」
「ちょいと、あれさ、何だよ、お前、おまちッてばねえ。」
 と身を起こして追おうとすると、やっこ駈出かけだした五足いつあしばかりを、一飛びに跳ね返って、ひょいとしゃがみ、立った女房の前垂まえだれのあたりへ、円いあご出額おでこで仰いで、
「おい、」という。
 出足へ唐突だしぬけ突屈つッかがまれて、女房の身は、前へしないそうになって蹌踉よろめいた。
「何だねえ、また、吃驚びっくりするわね。」
「へへへ、番ごとだぜ、弱虫やい。」
「ああ、いよ、三ちゃんは強うございますよ、強いからね、お前は強いからそのベソを掻いたわけをお話しよ。」
「お前は強いからベソを掻いたわけ、」と念のためいってみて、またたきした、目が渋そう。
不可いけねえや、強いからベソをなんて、誰が強くってベソなんか掻くもんだ。」
「じゃ、やっぱり弱虫じゃないか。」
「だってあねさん、ベソも掻かざらに。夜一夜よっぴて亡念の火が船について離れねえだもの。理右衛門りえむなんざ、おらがベソをなんていう口で、ああ見えてその時はお念仏唱えただ。」と強がりたさに目を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはる。
 女房はそれかあらぬか、内々あやぶんだ胸へひしと、色変るまで聞咎ききとがめ、
「ええ、亡念の火がいたって、」
「おっと、……」
 とばかり三之助は口をおさえ、
「黙ろう、黙ろう、」とわきを向いた、片頬かたほえみを含みながら吃驚びっくりしたような色である。
 かくすほどなお聞きたさに、女房はわざとすねて見せ、
いとも、沢山たんとそうやってお秘しな。どうせ、三ちゃんは他人だから、お浜の婿さんじゃないんだから、」
 と肩を引いて、身を斜め、ねじり切りそうにそでを合わせて、女房は背向そがいになンぬ。
 やっこは出るくいを打つ手つき、ポンポンと天窓あたまをたたいて、
「しまった! あねさん、何も秘すというわけじゃねえだよ。
 こんの兄哥あにきもそういうし、乗組んだ理右衛門でええも、姉さんには内証にしておけ、話すと恐怖こわがるッていうからよ。」
「だから、みんなで秘すんだから、せめて三ちゃんが聞かせてくれたってじゃないかね。」
「むむ、じゃ話すだがね、おらが饒舌しゃべったって、みんなにいっちゃ不可いけねえだぜ。」
「誰が、そんなことをいうもんですか。」
「お浜ッにも内証だよ。」
 とそっと伸上ってまた縁側から納戸の母衣蚊帳ほろがや差覗さしのぞく。
嬰児あかんぼが、何を知ってさ。」
「それでも夢に見てうなされら。」
「ちょいと、そんなに恐怖こわい事なのかい。」と女房は縁の柱につかまった。
「え、何、おらがベソを掻いて、理右衛門が念仏を唱えたくらいな事だけんども。そら、あねさん、この五月、三日流しの鰹船かつおぶねで二晩沖で泊ったっけよ。中の晩の夜中の事だね。
 野だも山だも分ンねえ、ぼっとした海の中で、おそめに夕飯を食ったあとでよ。
 昼間ッからの霧雨がしとしと降りになって来たで、みんな胴のへもぐってな、そん時に千太どんががしっけえ。
 急に、おお寒い、おお寒い、風邪かぜ揚句あげくだ不精しょう。誰ぞかわんなはらねえかって、ともからドンと飛下りただ。
 船はぐらぐらとしただがね、それで止まるような波じゃねえだ。どんぶりこッこ、すっこッこ、おかへ百里やら五十里やら、方角も何も分らねえ。」
 女房は打頷うちうなずいた襟さみしく、の張る胸をおさえたのである。

       六

「晩飯の菜に、塩からさめ過ぎた。どれ、糠雨ぬかあめでも飲むべい、とってな、理右衛門りえむどんが入交いれかわってがしつけえ。
 や、おぞいな千太、われ、えてものを見て逃げたな。とともじッさまがいわっしゃるとの、馬鹿いわっしゃい、ほんとうに寒気がするだッて、千太は天窓あたまから褞袍どてらかぶってころげた達磨だるまよ。
 ホイ、ア、ホイ、と浪の中で、かすかに呼ばる声がするだね。
 どこからだか分ンねえ、近いようにも聞えれば、遠いようにも聞えるだ。
 来やがった、来やがった、陽気が悪いとおもったい! おらもどうも疝気せんきがきざした。さあ、誰ぞ来てやってくれ、ちっとしゃがまねえじゃ、筋張ってしょ事がない、と小半時こはんときでまた理右衛門じいさまが潜っただよ。
 われげ、頭痛だ、きさま漕げ、脚気かっけだ、とみんな苦い顔をして、出人でてがねえだね。
 平胡坐ひらあぐらでちょっと磁石さ見さしつけえ、此家ここ兄哥あにやが、やっこてめえ漕げ、といわしったから、何の気もつかねえで、船で達者なのは、おらばかりだ、おっとまかせ。」と、やっこ顱巻はちまきの輪を大きく腕いっぱいに占める真似して、
「いきなりともへ飛んで出ると、船が波の上へ橋にかかって、雨ですべるというもんだ。
 どッこいな、と腰をめたが、ずッしりと手答えして、けやきの大木根こそぎにしたほどなおおきやつ、のッしりと掻いただがね。雨がしょぼしょぼと顱巻に染みるばかりで、空だか水だか分らねえ。はあ、昼間見る遠い処の山の上を、ふわふわと歩行あるくようで、底が轟々ごうごうえくり返るだ。
 ア、ホイ、ホイ、アホイと変な声が、真暗まっくらな海にも隅があってその隅の方から響いて来ただよ。
 西さ向けば、西の方、南さ向けば南の方、何でもおらがの向いた方で聞えるだね。浪のうねると同一おんなじに声が浮いたり沈んだり、遠くなったりな、近くなったり。
 その内ぼやぼやと火が燃えた。船から、沖へ、ものの十四五町と真黒まっくろな中へ、ぶくぶくと大きな泡が立つように、ぼッと光らあ。
 やあ、火がともれたいッて、おらあ、吃驚びっくりしてわめくとな、……あねさん。」
「おお、」と女房は変った声音こわね
「黙って、黙って、と理右衛門爺さまが胴ので、とまの下でいわっしゃる。
 また、千太がね、あれもよ、おか人魂ひとだまで、十五の年まで見ねえけりゃ、一生わねえというんだが、十三で出っくわした、やつ幸福しあわせよ、とくだあね。
 おらあ、それを聞くと、づかを握った手首から、寒くなったあ。」
「……まあ、いやじゃないかね、それでベソを掻いたんだね、無理はないよ、恐怖こわいわねえ。」
 とおくれ毛を風に吹かせて、女房も悚然ぞっとする。やっこの顔色、赤蜻蛉あかとんぼきびの穂も夕づく日。
「そ、そんなくれえで、お浜ッの婿さんだ、そんなくれえでベソなんか掻くべいか。
 炎というだが、変な火が、燃え燃え、こっちへ来そうだで、漕ぎ放すべいと艪をおしただ。
 姉さん、そうすると、その火がよ、大方浪のかただんべい、おらが天窓あたまより高くなったり、船底へがけが出来るように沈んだり、ぶよぶよと転げやあがって、船脚へついて、海蛇ののたくるようについて来るだ。」
「………………」
「そして何よ、ア、ホイ、ホイ、アホイと厭な懸声がよ、火の浮く時は下へ沈んで、火の沈む時は上へ浮いて、上下うえした底澄そこずんで、遠いのが耳について聞えるだ。」

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