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海異記(かいいき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 12:23:36  点击:  切换到繁體中文



       七

「何でも、はあ、おらと同じように、誰かその、炎さいで来るだがね。
 そばへ来られてはなんねえだ、とづかを刻んで、急いでしゃくると、はあ、不可いけねえ。
 向うも、ふわふわとはやくなるだ。
 こりゃ、なんねえ、しょことがない、ともううっちゃらかして、おさえて突立つったってびくびくして見ていたらな。やっぱりそれでも、来やあがって、ふわりとやって、鳥のように、へさきの上へ、水際さ離れて、たかったがね。一あたり風を食って、向うへ、ぶくぶくとのびたっけよ。またいびつなりに円くなって、ぼやりと黄色い、薄濁りの影がさした。大きな船は舳から胴の間へかけて、半分ばかり、黄色くなった。婦人おんながな、すそを拡げて、ひざを立てて、飛乗った形だっけ。一ぱし大きさも大きいで、艪が上って、向うへ重くなりそうだに、はや他愛もねえ軽いのよ。
 おらあ、わい、というて、艪を放した。
 そん時だ、われの、顔は真蒼まっさおだ、そういうおめえつらは黄色いぜ、ととまの間で、てんでんがいったあ。――あやかし火が通ったよ。
 やっこ、黙って漕げ、何ともするもんじゃねえッて、此家こん兄哥あにやが、いわっしゃるで、どうするもんか。おらかがんでな、そっとその火を見てやった。
 ぼやりと黄色な、底の方に、うようよと何か動いてけつから。」
「えッ、何さ、何さ、三ちゃん、」とせわしく聞いて、女房はひさしの陰。
 日向ひなたやっこも、暮れかかる秋の日の黄ばんだ中に、薄黒くもなんぬるよ。
「何だかちっとも分らねえが、赤目鰒あかめふぐはらわたさ、引ずり出して、たたきつけたような、うようよとしたものよ。
 どす赤いんだの、うすあおいんだの、にちにちみよしの板にくッついているようだっけ。
 すぽりと離れて、海へ落ちた、ぐるぐると廻っただがな、大のしにさっとのして、一浪ひとなみで遠くまで持って行った、どこかでうおの目が光るようによ。
 おらが肩も軽くなって、船はすらすらとすべり出した。胴の間じゃひっそりして、幽かにいびきも聞えるだ。夜は恐ろしく更けただが、浪もたいらになっただから、おらも息をいたがね。
 えてものめ、何が息を吐かせべい。
 アホイ、アホイ、とおらが耳のはたでまた呼ばる。
 黙って漕げ、といわっしゃるで、おらは、スウとも泣かねえだが、腹の中で懸声さするかと思っただよ。
 いやだからな、聞くまいとして頭あって、耳を紛らかしていたっけが、畜生、船にいて火を呼ぶだとよ。
 波がたいらだで、なおと不可いけねえ。火のやつめ、苦なしでふわふわとのしおった、その時は、おらが漕いでいる艪の方へさ、ぶくぶくと泳いで来たが、急にぼやっと拡がった、狸の睾丸きんたま八畳敷はちじょうじきよ。
 そこら一面、波が黄色に光っただね。
 その中に、はあ、細長い、ぬめらとした、黒い島が浮いたっけ。
 あやかし火について、そんな晩は、さめの奴が化けるだと……あとでじいさまがいわしった。
 そういや、目だっぺい。真赤まっかな火が二つ空を向いて、その背中の突先とっさきにらんでいたが、しばらくするとな。いまの化鮫ばけざめめが、微塵みじんになったように、大きい形はすぽりと消えて、百とも千とも数を知れねえ、いろんなうおが、すらすらすらすら、黄色な浪の上を渡りおったが、化鮫めな、さまざまにして見せる。からの海だか、天竺てんじくだか、和蘭陀オランダだか、分ンねえ夜中だったけが、おらあそんな事で泣きやしねえ。」とやっこは一息に勇んでいったが、ことばを途切らし四辺あたりながめた。
 目の前なる砂山の根の、その向き合える猛獣は、すすきの葉とともに黒く、海の空は浪の末に黄をぼかしてぞくれないなる。

       八

「そうする内に、またお猿をやって、ころりとかがんだ人間ぐれえに縮かまって、そこら一面に、さっと暗くなったと思うと、あやし火のやつめ、ぶらぶらとすそに泡を立てて、いきをついてうねって来て、今度はおらが足のかじからんで、ひらひらと燃えただよ。
 おらあ、目を塞いだが、鼻のさきだ。とも這上はいあがりそうな形よ、それで片っぺら燃えのびて、おらが持っているをつかまえそうにした時、おらが手は爪の色まで黄色くなって、目の玉もやっぱりその色に染まるだがね。だぶりだぶりふなべりさ打つ波も船も、黄色だよ。それでな、あねさん、金色になって光るなら、かねの船で大丈夫というもんだが、あやかしだからそうは行かねえ。
 時々けむのようになって船の形が消えるだね。浪が真黒まっくろに畝ってよ、そのたびに化物め、いきをついてまた燃えるだ。
 おら一生懸命に、艪でかきのめしてくれたけれど、火の奴は舵にからまりくさって、はあ、婦人おんなの裾が巻きついたようにも見えれば、じじいの腰がしがみついたようでもありよ。大きい鮟鱇あんこうが、腹の中へ、白張提灯しらはりぢょうちん鵜呑うのみにしたようにもあった。
 こん畜生、こん畜生と、おら、じだんだをんだもんだで、舵へついたかよ、と理右衛門爺りえむじいさまがいわっしゃる。ええ、ひっからまってともれくさるだ、というたらな。よくねえな、一あれ、あれようぜ、と滅入めいった声で松公がそういっけえ。
 やっこや。
 ひゃあ。
 そのあやし火の中をのぞいて見ろい、いかいこと亡者もうじゃが居らあ、地獄のさまは一見えだ、と千太どんがいうだあね。
 小児こどもだ、馬鹿をいうない、と此家ここ兄哥あにやがいわしっけ。
 おらたまんなくなって、ベソを掻き掻き、おいおい恐怖こわくって泣き出したあだよ。」
 いわれはかくと聞えたが、女房は何にもいわず、唇の色がせていた。
とまを上げて、ぼやりと光って、こんの兄哥の形がな、暗中くらやみへ出さしった。
 おれに貸せ、やっこ寝ろい。なるほどうっとうしくきやあがるッて、ハッとてのひら呼吸いきを吹かしったわ。
 一しけ来るぞ、騒ぐな、といって艪づかさ取って、真直まっすぐに空を見さしったで、おらも、ひとりでにすッこむ天窓あたま[#ルビの「あたま」は底本では「あまた」]を上げてながめるとな、一面にどす赤く濁って来ただ。波は、そこらに真黒まっくろな小山のような海坊主が、かさなり合って寝てるようだ。
 おら胴の間へ転げ込んだよ。ここにもごろごろと八九人さ、小さくなってすくんでいるだね。
 どこだも知んねえ海の中に、船さただ一そうで、目の前さ、化物に取巻かれてよ、やがて暴風雨あらしが来ようというだに、きて働くのはこんの兄哥、ただ一人だと思や心細いけんどもな、兄哥は船頭、こんな時のお船頭だ。」
 女房は引入れられて、
「まあ、ねえ、」とばかり深い息。
 やっこは高慢に打傾き、耳に小さな手をかざして、
ごう――とただ鳴るばかりよ、長延寺様さ大釣鐘を半日天窓あたまからかぶったようだね。
 うとうととこう眠ったっぺ。相撲を取って、ころり投げ出されたと思って目さあけると、船の中は大水だあ。あかをみ出せ、大変だ、と船も人もくるくる舞うだよ。
 とまも何も吹飛ばされた、恐しい音ばかりで雨が降るとも思わねえ、天窓あたまから水びたり、真黒な海坊主め、船の前へも後へも、右へも左へも五十三十。ぬくぬくと肩さ並べて、手を組んで突立つったったわ、手を上げると袖の中から、口いくと咽喉のどからいて、真白まっしろ水柱みずばしらが、から、さかさまにざあざあと船さ目がけて突蒐つっかかる。
 アホイ、ホイとどこだやら呼ばる声さ、あちらにもこちらにも耳について聞えるだね。」

       九

「その時さ、船は八丁艪はっちょうろになったがな、おららが呼ばる声じゃねえだ。
 やっぱりおなじ処に、かじについた、あやし火のあかりでな、影のような船の形が、薄ぼんやり、鼠色してけむが吹いて消える工合ぐあいよ、すッ飛んじゃするすると浮いてく。
 難有ありがてえ、島が見える、着けろ着けろ、と千太がわめく。やあ、どこのか船もぎつけた、島がそこに、と理右衛門爺りえむじいさま。じきさそこに、すくすくと山の形さあらわれて、やみの中突貫つきぬいて大幅な樹の枝が、※[#「さんずい+散」、288-10]のあいだにゆすぶれてな、帆柱さ突立つったって、波の上を泳いでるだ。
 血迷ったかこいつら、爺様までが何をいうよ、島も山も、海の上へ出たものは石塊いしころ一ツある処じゃねえ。暗礁かくれいわへ誘い寄せる、つれを呼ぶ幽霊船ゆうれいぶねだ。気をたしかに持たっせえ、弱いを出しやあがるなッて、此家こん兄哥あにやが怒鳴るだけんど、見す見す天竺てんじくへ吹き流されるだ、地獄の土でも構わねえ、おかあがって呼吸いききたい、助け船――なんのって弱い音さ出すのもあって、七転八倒するだでな、兄哥真直まっすぐに突立って、ぶるッと身震みぶるいをさしっけえよ、突然いきなり素裸すっぱだかになっただね。」
「内の人が、」と声を出して、女房はんだ。
兄哥あにやがよ。おい。
 あやかし火さ、まだ舵にいて放れねえだ、天窓あたまから黄色に光った下腹へな、鮪縄まぐろなわさ、ぐるぐると巻きつけて、その片端かたはじを、胴の間の横木へゆわえつけると、さあ、念ばらしだ、娑婆しゃばか、地獄か見届けて来るッてな、ここさ、はあ、こんの兄哥あにやが、渾名あだなに呼ばれた海雀うみすずめよ。鳥のようにびらりとねたわ、海の中へ、飛込むでねえ――真白まっしろな波のかさなりかさなり崩れて来る、大きな山へ――駈上かけあがるだ。
 百尋ひゃくひろばかりつかね上げた鮪縄の、ふなべりより高かったのがよ、一掬ひとすくいにずッとした! その、十丈、十五丈、弓なりに上からのぞくのやら、反りかえって、にらむのやら、口さあげておどすのやら、おおわりかかって取り囲んだ、黒坊主のたちはだかっている中へ浪にまれて行かしっけえ、船の中ではその綱を手ン手に取って、理右衛門爺さま、その時にお念仏だ。
 やっと時が立って戻ってござった。舷へ手をかけて、神様のような顔を出して、何にもねえ、八方から波をぶッつける暗礁かくれいわがあるばかりだ、迷うな、ッていわしった。
 お船頭、御苦労じゃ、御苦労じゃ、お船頭と、みんな握拳にぎりこぶしで拝んだだがね。
 坊主も島も船の影も、さらりと消えてよ。そこら山のような波ばかり。
 急に、あれだ、またそこらじゅう、空も、船も、人の顔も波も大きい大きい海の上さ半分仕切って薄黄色になったでねえか。
 ええ、何をするだ、あやかしめ、また拡がったなッて、みんなくそ焼けに怒鳴ったっけえ。そうじゃねえ、東の空さお太陽てんとうさまがあがらっしたが、そこでも、あねさん、天と波と、上下うえしたへ放れただ。昨夜ゆうべ化鮫ばけざめの背中出したように、一面の黄色な中に薄ぼんやり黒いものがかかったのは、たけの堂が目のはてへ出て来ただよ。」
 女房はほっとしたような顔色かおつきで、
「まあ、かったねえ、それじゃ浜へも近かったんだね。」
「思ったよりは流されていねえだよ、それでも沖へ三十里ばかり出ていたっぺい。」
「三十里、」
 とまた驚いたさまである。
「何だなあ、あねさん、三十里ぐれえ何でもねえや。
 それで、はあ夜が明けると、黄色くどって透通ったような水と天との間さ、薄あかりの中をいろいろな、片手で片身のやつだの、首のねえのだの、蝦蟇がま呼吸いき吹くようなのだの、犬の背中へ炎さからまっているようなのだの、牛だの、馬だの、異形いぎょうなものが、影燈籠かげどうろう見るようにふわふわまよって、さっさと駈け抜けてどこかへくだね。」

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