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海異記(かいいき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 12:23:36  点击:  切换到繁體中文



       十

「あとで、はい、理右衛門爺りえむじいさまもそういっけえ、この年になるまで、昨夜ゆうべぐれえ執念深しゅうねんぶけえあやかしのいた事はねえだって。
 あねさん。
 何だって、あれだよ、そんなに夜があけて海のばけものどもさ、するするけ出してせるだに、手許てもとあかるくなって、みんなの顔が土気色つちけいろになって見えてよ、が白うなったのに、かじにくいついた、えてものめ、まだ退かねえだ。
 お太陽てんとうさまおかげだね。その色が段々あおくなってな、ちっとずつ固まって掻いすくまったようだっけや、ぶくぶくとすその方が水際で膨れたあ、ひるめが、吸いふとったようになって、ほとりの波の上へ落ちたがね、からからと明くなって、蒼黒い海さ、日の下で突張つっぱって、ねてるだ。
 まあ、めでてえ、とみんなで顔を見たっけや、めでてえはそればかりじゃねえだ、姉さんも、新しい衣物きものが一枚出来たっぺい、あん時のかつおさ、今年中での大漁だ。
 みよしに立って釣らしった兄哥あにやからだのまわりへさ、銀の鰹が降ったっけ、やあ、姉さん。」
 と暮れかかる蜘蛛くものきを仰いだ、やっこ出額おでこは暗かった。
 女房もそれなりに咽喉のどほの白う仰向あおむいて、目を閉じて見る、胸のうらの覚え書。
「じゃ何だね、五月雨時分さみだれじぶん、夜中からあれた時だね。
 まあ、お前さんは泣き出すし、爺さまもお念仏をお唱えだって。内の人はその恐しい浪の中で、生命いのちがけで飛込んでさ。
 私はただ、波の音が恐しいので、宵からかどじょうをおろして、奥でお浜と寝たっけ、ねえ。
 どんなはげしい浪が来ても裏のがけは崩れない、鉄の壁だ安心しろッて、内の人がおいいだから、そればかりをたよりにして、それでもドンとつかるごとに、崖と浪とでいくさをする、今打った大砲で、岩が破れやしまいかと、坊やをしっかり抱くばかり。夜中に乳のかれるのと、寂しいばかりをよくにして、つめたいとも寒いとも思わないで寝ていたのに、そうだったのか、ねえ、三ちゃん。
 そんな、荒浪だの、恐しいあやかし火とやらだの、黒坊主だの、船幽霊ふなゆうれいだのの中で、内の人は海から見りゃの葉のような板一枚に乗っていてさ、」と女房は首垂うなだれつつ、
「私にゃ何にもいわないんだもの……」と思わず襟に一雫ひとしずく、ほろりとして、
「済まないねえ。」
 やっこは何の仔細しさいも知らず、慰め顔に威勢のい声、
「何も済まねえッてこたアありやしねえだ。よう、あねさん、お前に寒かったり冷たかったり、辛い思いさ、さらせめえと思うだから、兄哥あにやがそうして働くだ。おらも何だぜ、もう、そんな時さあったってベソなんか掻きやしねえ、お浜ッ子の婿さんだ、一所に海へ飛込むぜ。
 そのかわり今もいっけえよ。兄哥あにやのために姉さんが、お膳立ぜんだてしたり、お酒買ったりよ。
 おら、酒は飲まねえだ、お芋でいや。
 よッしょい、と鰹さ積んで波に乗込んで戻って来ると、……浜に煙がなびきます、あれは何ぞと問うたれば」
 と、いたいけに手をたたき、
石々いしいし合わせて、塩んで、玩弄おもちゃのバケツでお芋煮て、かじめをちょろちょろくわいのだ。……ようあねさん、」
 やっこは急にぬいと立ち、はだかった胸を手で仕切って、
「おらがここまで大きくなって、お浜ッ子が浜へ出て、まま事するはいつだろうなあ。」
 女房は夕露の濡れた目許の笑顔優しく、
「ああ、そりゃもう今日明日という内に、直きに娘になるけれど、あの、三ちゃん、」
 と調子をかえて、心ありげに呼びかける。

       十一

「ああ、」
「あのね、私は何も新しい衣物きものなんかほしいとは思わないし、坊やも、お菓子もらないから、お前さん、どうぞ、お婿さんになってくれる気なら、船頭はよして、何ぞほかの商売にしておくれな、ねえさん、お願いだがどうだろうね。」
 と思い入ったかことばもあらため、縁に居ずまいもなおしたのである。
 やっこは遊び過ぎた黄昏たそがれの、からすの鳴くのをきょろきょろ聞いて、浮足に目もうわつき、
あねさん、稲葉丸は今日さ日帰りだっぺいか。」
「ああ、内でもね。今日は晩方までに帰るって出かけたがね、お聞きよ、三ちゃん、」
 とそわそわするのをおさえていったが、やっこはよくも聞かないで、
あねさんこそ聞きねえな、あらよ、堂のたけから、烏が出て来た、カオ、カオもねえもんだ、盗賊どろぼうをする癖にしやあがって、漁さえ当ると旅をかけて寄って来やがら。
 姉さん船が沖へ来たぜ、大漁だ大漁だ、」
 と烏の下で小さく躍る。
「じゃ、内の人も帰って来よう、三ちゃん、浜へ出て見ようか。」と良人おっと[#ルビの「おっと」は底本では「をっと」]の帰る嬉しさに、何事も忘れたさまで、女房は衣紋えもんを直した。
「まだ、見えるような処まで船は入りやしねえだよ。見さっせえ。そこらの柿の樹の枝なんか、ほら、ざわざわと烏めい、えんこをして待ってやがる。
 五六里の処、ぎつけて来るだからね。ここらに待っていて、浜へ魚の上るのをねらうだよ、浜へ出たって遠くの方で、船はやっとこの烏ぐれえにしか見えやしねえや。
 やあ、見さっせえ、また十五六羽って来た、沖の船は当ったぜ。
 あねさん、また、着るものが出来らあ、チョッ、」
 舌打の高慢さ、
「おらも乗ってきゃ小遣こづかいもれえたに、号外を遣ってもうけ損なった。お浜ッに何にも玩弄物おもちゃが買えねえな。」
 と出額おでこをがッくり、爪尖つまさき蠣殻かきがらを突ッかけて、赤蜻蛉あかとんぼの散ったあとへ、ぼたぼたとこぼれて映る、烏の影へ足礫あしつぶて
「何をまたカオカオだ、おらも玩弄物を、買お、買おだ。」
 黙って見ている女房は、急にまたしめやかに、
「だからさ、三ちゃん、玩弄物も着物も要らないから、お前さん、漁師でなく、何ぞほかの商売をするように心懸けておくんなさいよ。」という声もうるんでいた。
 やっこははじめて口を開け、けろりと真顔で向直って、
「何だって、漁師をめて、何だって、よ。」
「だっても、そんな様子じゃ、海にどんなものが居ようも知れない、ね、こわいじゃないか。
 内の人や三ちゃんが、そうやって私たちを留守にして海へ漁をしに行ってる間に、あらしが来たり浪が来たり、そりゃまだいいとして、もしか、あの海から上って私たちを漁しに来るものがあったらどうしよう。貝が殻へかくれるように、うちへ入ってすくんでいても、向うが強ければつかまえられるよ。お浜は嬰児あかんぼだし、私はこうやって力がないし、それを思うとほんとに心細くってならないんだよ。」
 としみじみいうのを、あきれた顔して、聞き澄ました、やっこは上唇を舌でめ、めじりを下げて哄々くっくっとふきいだし。
「馬鹿あ、馬鹿あいわねえもんだ。へ、へ、へ、うおが、魚が人間を釣りに来てどうするだ。尾で立ってちょこちょこ歩行あるいて、ひれさおを持つのかよ、よう、あねさん。」
「そりゃかつおや、さばが、棹を背負しょって、そこから浜を歩行あるいて来て、軒へしゃがむとはいわないけれど、底の知れない海だもの、どんなものがんでいて、陽気の悪い夜なんぞ、浪に乗って来ようも知れない。昼間だって、ここへ来たものは、――今日は、三ちゃんばかりじゃないか。」
 と女房は早や薄暗い納戸のかたを顧みる。

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