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伯爵の釵(はくしゃくのかんざし)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:19:57  点击:  切换到繁體中文



       七

 明眸めいぼうの左右に樹立こだちが分れて、一条ひとすじの大道、炎天のもとひらけつつ、日盛ひざかりの町の大路が望まれて、煉瓦造れんがづくりの避雷針、古い白壁しらかべ、寺の塔などまつげこそぐる中に、行交う人は点々と蝙蝠こうもりのごとく、電車は光りながら山椒魚さんしょううおうのに似ている。
 忘れもしない、限界のその突当りが、昨夜ゆうべまで、我あればこそ、電燭でんしょくのさながら水晶宮のごとく輝いた劇場であった。
 ああ、一翳いちえいの雲もないのに、緑紫くれないの旗の影が、ぱっと空をおおうまで、花やかに目に飜った、と見るとさっと近づいて、眉に近い樹々の枝に色鳥の種々いろいろの影に映った。
 けだし劇場に向って、高くかざした手の指環の、玉のほこり幻影まぼろしである。
 紫玉は、瞳を返して、華奢きゃしゃな指を、俯向うつむいてつつ莞爾にっこりした。
 そして、すらすらと石橋を前方むこうへ渡った。それから、森を通る、姿はみどりに青ずむまで、しずかに落着いて見えたけれど、二ツ三ツかさなった不意の出来事に、心の騒いだのは争われない。……涼傘ひがさを置忘れたもの。……
 森を高く抜けると、三国見霽みはらしの一面の広場になる。かっと射る日に、手廂てびさししてこうながむれば、松、桜、梅いろいろ樹のさま、枝のふりの、各自おのおの名ある神仙の形を映すのみ。幸いに可忌いまわしい坊主の影は、公園の一ぼく一草をも妨げず。また……人の往来ゆきかうさえほとんどない。
 一処ひとところ、大池があって、朱塗の船の、さざなみに、浮いたみぎわに、盛装した妙齢としごろの派手な女が、つがい鴛鴦おしどりの宿るように目に留った。
 真白な顔が、揃ってこっちを向いたと思うと。
「あら、お嬢様。」
「お師匠さーん。」
 一人がもう、空気草履の、なまめかしい褄捌つまさばきで駆けて来る。目鼻は玉江。……もう一人は玉野であった。
 紫玉は故郷へ帰った気がした。
「不思議な処で、と言いたいわね。見ぶつかい。」
「ええ、観光団。」
「何を悪戯いたずらをしているの、お前さんたち。」
 と連立って寄る、汀に居た玉野の手には、船首みよしへ掛けつつさおがあった。
 ふなばたあい萌黄もえぎの翼で、かしらにも尾にもべにを塗った、鷁首げきしゅの船の屋形造。玩具おもちゃのようだが四五人は乗れるであろう。
「お嬢様。おめしなさいませんか。」
 聞けば、向う岸の、むら萩にいおりの見える、船主ふなぬしの料理屋にはもう交渉済で、二人は慰みに、これから漕出こぎだそうとする処だった。……お前さんに漕げるかい、と覚束おぼつかなさに念を押すと、浅くて棹が届くのだから仔細しさいない。ただ、一ケ所底の知れない深水ふかみずの穴がある。たつの口ととなえて、ここから下の滝の伏樋ふせどいに通ずるよし言伝える、……危くはないけれど、そこだけはけたがかろう、と、……こんな事には気軽な玉江が、つい駆出して仕誼ことわりを言いに行ったのに、料理屋の女中が、わざわざ出て来て注意をした。
「あれ、あすこですわ。」と玉野がゆびさす、大池をうしとらかたへ寄る処に、板を浮かせて、小さな御幣ごへいが立っていた。真中まんなか築洲つきずに鶴ケ島というのが見えて、ほこらに竜神をまつると聞く。……鷁首の船は、その島へ志すのであるから、滝の口は近寄らないで済むのであったが。
「乗ろうかね。」
 と紫玉はもうつまを巻くように、爪尖つまさきを揃えながら、
「でも何だか。」
「あら、なぜですえ。」
「御幣まで立って警戒をした処があっちゃあ、遠くを離れて漕ぐにしても、船頭が船頭だから気味が悪いもの。」
「いいえ、あの御幣は、そんなおどかしじゃありませんの。不断は何にもないんだそうですけれど、二三日前、誰だか雨乞だと言って立てたんだそうですの、このひでりですから。」

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