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伯爵の釵(はくしゃくのかんざし)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:19:57  点击:  切换到繁體中文


 おもうに、太平の世の国のかみが、隠れて民間に微行するのは、まつりごとを聞く時より、どんなにか得意であろう。落人おちゅうどのそれならで、そよと鳴る風鈴も、人は昼寝の夢にさえ、我名を呼んで、讃美し、歎賞する、微妙なる音響、と聞えて、その都度、ハッと隠れ忍んで、微笑ほほえみ微笑み通ると思え。
 深張ふかばり涼傘ひがさの影ながら、なお面影は透き、色香はほのめく……心地すれば、たれはばかるともなく自然おのずから俯目ふしめ俯向うつむく。謙譲のつまはずれは、倨傲きょごうの襟より品を備えて、尋常な姿容すがたかたちは調って、焼地にりつく影も、水で描いたように涼しくも清爽さわやかであった。
 わずかに畳のへりばかりの、日影を選んで辿たどるのも、人は目を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはって、鯨に乗って人魚が通ると見たであろう。……素足の白いのが、すらすらと黒繻子くろじゅすの上をすべれば、どぶながれも清水の音信おとずれ
 で、真先まっさきに志したのは、城のやぐらと境を接した、三つ二つ、全国に指を屈するという、景勝の公園であった。

       二

 公園の入口に、樹林を背戸に、蓮池はすいけを庭に、柳、藤、桜、山吹など、飛々とびとびに名に呼ばれた茶店がある。
 紫玉が、いま腰を掛けたのは柳の茶屋というのであった。が、あかたすきで、色白な娘が運んだ、煎茶せんちゃ煙草盆たばこぼんを袖に控えて、さまでたしなむともない、その、伊達だてに持った煙草入を手にした時、――
「……あれは女のだったかしら、それとも男の児だったろうかね。」
 ――と思い出したのはそれである。――
 で、華奢造きゃしゃづくりの黄金きん煙管ぎせるで、余りれない、ちと覚束おぼつかない手つきして、青磁色の手つきの瀬戸火鉢を探りながら、
「……帽子を……かぶっていたとすれば、男の児だろうが、青い鉢巻だっけ。……麦藁むぎわらに巻いたきれだったろうか、それともリボンかしら。色は判然はっきり覚えているけど、……お待ちよ、――とこうだから。……」
 取って着けたようなみ方だから、見ると、ものものしいまでに、打傾いて一口吸って、
「……年紀としは、そうさね、七歳ななつ六歳むッつぐらいな、色の白い上品な、……男の児にしてはちと綺麗過ぎるから女の児――だとリボンだね。――青いリボン。……幼稚ちいさくたってと限りもしないわね。では、やっぱり女の児かしら。それにしては麦藁帽子……もっともおさげに結ってれば……だけど、そこまでは気が付かない。……」
 大通りは一筋だが、道に迷うのも一興で、そこともなく、裏小路へ紛れ込んで、低い土塀からうり茄子なすはたけのぞかれる、荒れ寂れた邸町やしきまちを一人で通って、まるっきり人に行合ゆきあわず。白熱した日盛ひざかりに、よくも羽が焦げないと思う、白い蝶々の、不意にスッと来て、飜々ひらひらと擦違うのを、吃驚びっくりした顔をして見送って、そして莞爾にっこり……したり……そうした時は象牙骨ぞうげぼねの扇でちょっと招いてみたり。……土塀の崩屋根くずれやねを仰いで血のような百日紅さるすべりの咲満ちた枝を、涼傘ひがささきくすぐる、とたまらない。とぶるぶるゆさゆさとるのに、「御免なさい。」と言ってみたり。石垣の草蒸くさいきれに、棄ててある瓜の皮が、化けて脚が生えて、むくむくと動出しそうなのに、「あれ。」と飛退とびのいたり。取留めのないすさびも、この女の人気なれば、話せば逸話に伝えられよう。
 低い山かと見た、樹立こだちの繁った高い公園の下へ出ると、坂の上り口にやしろがあった。
 宮も大きく、境内も広かった。が、砂浜に鳥居を立てたようで、拝殿の裏崕うらがけには鬱々うつうつたるその公園の森を負いながら、広前ひろまえは一面、真空まそらなる太陽に、こいしの影一つなく、ただ白紙しらかみを敷詰めた光景ありさまなのが、日射ひざしに、ややきばんで、びょうとして、どこから散ったか、百日紅の二三点。
 ……覗くと、静まり返った正面のきざはしかたわらに、べにの手綱、朱のくら置いた、つくりものの白の神馬しんめ寂寞せきばくとして一頭ひとつ立つ。横に公園へ上る坂は、見透みとおしになっていたから、涼傘のままスッと鳥居から抜けると、紫玉の姿は色のまま鳥居の柱に映って通る。……そこに屋根囲やねがこいした、おおいなる石の御手洗みたらしがあって、青き竜頭りゅうずからたたえた水は、且つすらすらと玉を乱して、さっすだれ噴溢ふきあふれる。その手水鉢ちょうずばち周囲まわりに、ただ一人……その稚児が居たのであった。
 が、炎天、人影も絶えた折から、父母ちちははの昼寝の夢を抜出した、神官のであろうと紫玉はた。ちらちら廻りつつ、廻りつつ、あちこちする。……
 と、御手洗は高く、稚児は小さいので、下を伝うてまわりを廻るのが、さながら、石に刻んだ形が、噴溢れる水の影に誘われて、すらすらと動くような。……と視るうちに、稚児は伸上り、伸上っては、いたいけな手を空に、すらりと動いて、伸上っては、また空に手を伸ばす。――
 紫玉はズッと寄った。稚児はもう涼傘の陰に入ったのである。
「ちょっと……何をしているの。」
「水が欲しいの。」
 と、あどけなく言った。
 ああ、それがため足場を取っては、取替えては、手を伸ばす、が爪立っても、青いきれを巻いた、その振分髪、まろが丈は……筒井筒つついづつそのなかばにも届くまい。

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