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売色鴨南蛮(ばいしょくかもなんばん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:18:16  点击:  切换到繁體中文



       二

 おどかしては不可いけない。何、黒山の中の赤帽で、そこに腕組をしつつ、うしろ向きに凭掛もたれかかっていたが、宗吉が顔を出したのを、茶色のちょんぼりひげはやした小白い横顔で、じろりとめると、
「上りは停電……下りは故障です。」
 と、人の顔さえ見れば、返事はこう言うものとめたようにほとんど機械的に言った。そして頸窪ぼんのくぼをその凭掛った柱で小突いて、超然とした。
「へッ! 上りは停電。」
「下りは故障だ。」
 ひびきの応ずるがごとく、四五人口々に饒舌しゃべった。
「ああ、ああ、」
たまらねえなあ。」
「よく出来てら。」
「困ったわねえ。」と、つい釣込まれたかして、つれもない女学生が猪首いくびを縮めてつぶやいた。
 が、いずれも、今はじめて知ったのでは無さそうで、赤帽がしかく機械的に言うのでも分る。
 かかる群集の動揺どよむ下に、冷然たる線路は、日脚に薄暗く沈んで、いまにはぜが釣れるから待て、と大都市の泥海に、入江のごとく彎曲わんきょくしつつ、伸々のびのびと静まり返って、その癖底光そこびかりのする歯の土手を見せて、冷笑あざわらう。
 赤帽の言葉を善意に解するにつけても、いやしくも中山高帽やまたかかぶって、外套も服も身に添った、洋行がえりの大学教授が、端近はしぢかへ押出して、その際じたばたすべきではあるまい。
 宗吉は――煙草たばこまないが――その火鉢のそば引籠ひきこもろうとして、靴を返しながら、爪尖つまさきを見れば、ぐしょぬれの土間に、ちらちらとまたくれないの褄が流れる。
 緋鯉ひごいが躍ったようである。
 思わず視線の向うのと、肩を合せて、その時、腰掛を立上った、もう一人の女がある。ちょうど緋縮緬のと並んでいた、そのつれかとも思われる、大島の羽織を着た、丸髷まるまげの、脊の高い、面長な、目鼻立のきっぱりした顔を見ると、宗吉は、あっと思った。
 再び、おや、と思った。
 と言うのは、このごろ忙しさに、不沙汰ぶさたはしているが、知己ちかづきも知己、しかもその婚礼の席につらなった、従弟いとこの細君にそっくりで。世馴よなれた人間だと、すぐに、「おお。」と声を掛けるほど、よく似ている。がその似ているのを驚いたのでもなければ、思い掛けず出会ったのを驚いたのでもない。まさしくその人と思うのが、近々ちかぢかと顔を会わせながら、すっと外らして窓から雨の空をた、取っても附けない、赤の他人らしい処置ぶりに、一驚をきっしたのである。
 いや、全く他人に違いない。
 けれども、脊恰好せいかっこうから、形容なりかたち生際はえぎわの少し乱れた処、色白な容色きりょうよしで、浅葱あさぎ手柄てがらが、いかにも似合う細君だが、この女もまた不思議に浅葱の手柄で。びんの色っぽい処から……それそれ、少し仰向あおむいている顔つき。他人が、ちょっと眉をひそめる工合ぐあいを、その細君は小鼻から口元にしわを寄せる癖がある。……それまでが、そのままで、電車を待草臥まちくたびれて、雨にわびしげな様子が、小鼻に寄せた皺に明白あからさまであった。
 勿論、別人とは納得しながら、うっかり口に出そうな挨拶こんにちはを、唇で噛留かみとめて、心着くと、いつの間にか、足もやや近づいて、帽子に手を掛けていたきまりの悪さに、背を向けて立直ると、雲低く、下谷したや、神田の屋根一面、雨も霞もみなぎって濁ったなかに、神田明神の森が見える。
 と、緋縮緬の女が、同じ方をじっていた。

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