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売色鴨南蛮(ばいしょくかもなんばん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:18:16  点击:  切换到繁體中文



       八

「何をするんですよ、何をするんですよ、お前さん、串戯じょうだんではありません。」
 社殿の裏なる、空茶店あきちゃみせ葦簀よしずの中で、一方の柱に使った片隅なる大木の銀杏いちょうの幹に凭掛よりかかって、アワヤ剃刀を咽喉のどに当てた時、すッと音して、滝縞たきじまの袖で抱いたお千さんの姿は、……宗吉の目に、高い樹の梢からさっと下りた、美しい女の顔した不思議な鳥のように映った――
 剃刀をもぎ取られて後は、茫然ぼうぜんとして、ほとんど夢心地である。
「まあ! かった。」
 と、身をじて、肩を抱きつつ、やしろの方を片手拝みに、
「虫が知らしたんだわね。いま、お前さんが台所で、剃刀を持ってくって声が聞えたでしょう、ドキリとしたのよ。……秦さん秦さんと言ったけれど、もう居ないでしょう。何だかね、こんな間違がありそうな気がしてならない、私。私、でね、すぐに後から駆出したのさ。でも、どこってあてはないんだもの、鳥居前のあすこの床屋で聞いてみたの。まあね、……まるでお見えなさらないと言うじゃあないの。しまった、と思ったわ。半分夢中で、それでも私がここへ来たのは神仏かみほとけのお助けです。秦さん、私が助けるんだと思っちゃあ不可いけない。うござんすか、いかえ、貴方あなた。……親御さんが影身に添っていなさるんですよ。ようござんすか、分りましたか。」
 と小児こどものように、柔い胸に、帯も扱帯しごきもひったりと抱き締めて、
「御覧なさい、お月様が、あれ、仏様ののさんが。」
 忘れはしない、半輪の五日の月が黒雲を下りるように、荘厳なる銀杏の枝に、梢さがりにかかったのが、可懐なつかしい亡き母の乳房の輪線の面影した。
「まあ、これからという、……女にしてもつぼみのいま、どうして死のうなんてしたんですよ。――私に……私……ええ、それが私に恥かしくって、――」
 そのふるえが胸に響く。
「何の塩煎餅の二枚ぐらい、貴方が掏賊ちぼでも構やしない――私はね、あの。……まあ、とにかく、内へきましょう。塩梅あんばいに誰も居ないから。」
 促して、急いで脱放しの駒下駄をさぐる時、白脛しらはぎが散った。お千もあわただしかったと見えて、宗吉の穿物はきものまでは心着かず、可恐おそろしい処をげるばかりに、息せいて手を引いたのである。
 魔をけ、死神を払う禁厭まじないであろう、明神の御手洗みたらしの水をすくって、しずくばかり宗吉の頭髪かみを濡らしたが、
「……息災、延命、息災延命、学問、学校、心願成就。」
 と、手よりも濡れた瞳を閉じて、えり白く、御堂みどうをば伏拝み、
「一口めしあがれ、……気を静めて――私も。」
 と柄杓ひしゃくを重げに口にした。
動悸どうきを御覧なさいよ、私のさ。」
 その胸のとどろきは、今より先に知ったのである。
「秦さん、私は貴方を連れて、もうあすこへは戻らない。……身にも命にもかえてね、お手伝をしますがね、……実はね、今明神様におわびをして、貴方のおつむを濡らしたのは――実は、あの、一度内へ帰ってね。……この剃刀で、貴方を、そりたての今道心にして、一緒に寝ようと思ったのよ。――あのね、実はね、今夜あたり紀州のあの坊さんに、私が抱かれて、そこへ、熊沢だの甘谷だのが踏込んで、不義いたずらの罪に落そうという相談に……どうでも、と言って乗せられたんです。
 ……あの坊さんは、高野山とかの、金高かねだかなお宝ものを売りに出て来ているんでしょう。どことかの大金持だの、何省の大臣だのに売ってやると言って、だまして、熊沢が皆質に入れて使ってしまって、催促される、苦しまぎれに、不断、何だか私にね、坊さんが厭味いやみらしい目つきをするのを知っていて、まあ大それた美人局つつもたせだわね。
 私が弱いもんだから、身体からだも度胸もずばぬけて強そうな、あの人をたよりにして、こんな身裁しだらになったけれど、……そんな相談をされてからはね……その上に、この眉毛まみえを見てからは……」
 と、お千はそっと宗吉の肩を撫でた。
「つくづく、あんな人が可厭いやになった。――そら、どかどかと踏込むでしょう。貴方を抱いて、ちゃんと起きて、居直って、あいそづかしをきっぱり言って、夜中に直ぐに飛出して、溜飲りゅういんを下げてやろうと思ったけれど……どんな発機はずみで、自棄腹やけばらの、あの人たちの乱暴に、貴方に怪我でもさせた日にゃ、取返しがつかないから、といま胸に手を置いて、分別をしたんですよ。
 さ、このままどこかへきましょう。私に任して安心なさいよ。……貴方もきっとあの人たちに二度とつき合っては不可いけません。」
 裏崕うらがけの石段を降りる時、宗吉は狼の峠を越して、花やかな都を見る気がした。
「ここ……そう……」
 お千さんが莞爾にっこりして、塩煎餅を買うのに、昼夜帯をいたのが、安ものらしい、が、萌黄もえぎ金入かねいれ
「食べながら歩行あるきましょう。」

「弱虫だね。」
 大通おおどおりへ抜ける暗がりで、甘く、且つかんばしく、皓歯しらはでこなしたのを、口移し……

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