您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 泉 鏡花 >> 正文

売色鴨南蛮(ばいしょくかもなんばん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:18:16  点击:  切换到繁體中文



       六

 ……さて、やがて朝湯から三人が戻って来ると、長いこと便所に居た熊沢も一座で、また花札をもてあそぶ事になって、朝飯はすしにして、湯豆腐でちょっと一杯、と言う。
 この使つかいのついでに、明神の石坂、開化楼裏の、あの切立きったての段を下りた宮本町の横小路に、相馬そうま煎餅せんべい――塩煎餅の、焼方の、醤油したじに、何となくくつわの形の浮出して見える名物がある。――茶受にしよう、是非お千さんにも食べさしたいと、甘谷の発議。で、宗吉がこれを買いに遣られたのが事の原因おこりであった。
 何分にも、十六七の食盛くいざかりが、毎日々々、三度の食事にがつがつしていた処へ、朝飯前とたとえにも言うのが、突落されるようにけわしい石段を下りたドン底の空腹ひもじさ。……天麩羅てんぷらとも、蕎麦そばとも、焼芋とも、ぷんと塩煎餅のこうばしさがコンガリと鼻を突いて、袋を持った手がガチガチと震う。近飢ちかがつえに、冷い汗が垂々たらたらと身うちに流れる堪え難さ。
 その時分の物価で、……忘れもしない七銭が煎餅の可なりかさのある中から……小判のごとく、数二枚。
 宗吉は、一坂ひとさか戻って、段々にちょっと区劃くぎりのある、すぐに手を立てたように石坂がまた急になる、平面な処で、銀杏いちょうの葉はまだ浅し、もみえのきこずえは遠し、たてに取るべき蔭もなしに、がけ溝端どぶばた真俯向まうつむけになって、生れてはじめて、許されない禁断のこのみを、相馬の名に負う、轡をガリリと頬張る思いで、馬の口にかぶりついた。が、うまさと切なさと恥かしさに、堅くなった胸は、おのずからどぶの上へのめって、折れて、煎餅は口よりもかえって胃の中でボリボリとれた。
 ト突出つきだしひさしに額を打たれ、忍返しのびがえしの釘に眼を刺され、かっと血とともに総身そうしんが熱く、たちまち、罪ある蛇になって、攀上よじのぼる石段は、お七が火の見を駆上った思いがして、こうべす太陽は、血の色して段に流れた。
 宗吉はかくてまた明神の御手洗みたらしに、更に、氷にとじらるる思いして、悚然ぞっと寒気を感じたのである。
「くすくす、くすくす。」
 花骨牌はちはちの車座の、輪に身をかるる、あやうさを感じながら、宗吉が我知らずおもてを赤めて、煎餅の袋を渡したのは、甘谷の手で。
「おっと来た、めしあがれ。」
 と一枚めくって合せながら、袋をお千さんの手に渡すと、これは少々疲れた風情で、なかまへは入らぬらしい。火鉢を隔てたのが請取って、膝でのぞくようにして開けて、
「御馳走様ですね……早速お毒見。」
 と言った。
 これにまた胸が痛んだ。だけなら、まださほどまでの仔細はなかった。
「くすくす、くすくす。」
 宗吉がこの座敷へ入りしなに、もうその忍び笑いの声が耳に附いたのであるが、この時、お千さんの一枚つまんだ煎餅を、見ないように、ちょっとわきへかわした宗吉の顔に、横から打撞ぶつかったのは小皿の平四郎。……頬骨の張った菱形のつらに、くぼんだ目を細く、小鼻をしかめて、
「くすくす。」
 とまた遣った。手にわるさに落ちたと見えて札は持たず、鍍金めっき銀煙管ぎんぎせるを構えながら、めりやすの股引ももひきを前はだけに、片膝を立てていたのが、その膝頭に頬骨をたたき着けるようにして、
「くすくすくす。」
 続けて忍びわらいをしたのである。
 立続たてつけて、
「くッくッくッ。」

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] 下一页  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告