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売色鴨南蛮(ばいしょくかもなんばん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:18:16  点击:  切换到繁體中文



       九

 宗吉が夜学から、徒士町おかちまちのとある裏の、空瓶屋と襤褸屋ぼろやの間の、貧しい下宿屋へ帰ると、引傾ひきかしいだ濡縁ぬれえんづきの六畳から、男が一人摺違すれちがいに出てくと、お千さんはパッと障子を開けた。が、もう床が取ってある……
 枕元の火鉢に、はかり炭を継いで、目の破れた金網をはすに載せて、お千さんが懐紙ふところがみであおぎながら、豌豆餅えんどうもちを焼いてくれた。
 そして熱いのを口で吹いて、嬉しそうな宗吉に、浦里の話をした。
 お千は、それよりも美しく、雪はなけれど、ちらちらと散る花の、小庭の湿地しけちの、石炭殻につもる可哀あわれさ、痛々しさ。
 時次郎でない、頬被ほおかぶりしたのが、黒塀の外からヌッと覗く。
 お千が脛白はぎしろく、はっと立って、障子をしめようとする目の前へ、トンと下りると、つかつかと縁側へ。
「あれ。」
「おい、気の毒だがちょっと用事だ。」
 と袖から蛇の首のように捕縄とりなわをのぞかせた。
 膝をなえたようにきながら、お千は宗吉を背後うしろに囲って、
「……この人は……」
「いや、小僧に用はない。すぐおいで。」
「宗ちゃん、……朝の御飯はね、煮豆が買ってふたものに、……紅生薑べにしょうがと……紙のおおいがしてありますよ。」
 風俗係は草履を片手に、もう入口のふすまを開けていた。
 お千が穿はきものをさがすうちに、風俗係は、内から、戸の錠をあけたが、軒を出ると、ひたりと腰縄を打った。
 細腰はふっと消えて、すぼめた肩が、くらがりの柳に浮く。
 ……そのお千には、もうとうに、羽織もなく、下着もなく、はだえただ白くしまの小袖のえたるのみ。
 宗吉は、跣足はだしで、めそめそ泣きながら後を追った。
 目も心も真暗まっくらで、町も処も覚えない。さっと一条の冷い風が、電燈の細い光に桜を誘った時である。
「旦那。」
 とお千が立停たちどまって、
「宗ちゃん――宗ちゃん。」
 振向きもしないで、うなだれたのが、気を感じて、眉を優しく振向いた。
「…………」
「姉さんが、魂をあげます。」――辿たどりながら折ったのである。……懐紙の、白い折鶴がにあった。
「この飛ぶ処へ、すぐおいで。」
 ほっと吹く息、薄紅うすくれないに、折鶴はかえって蒼白あおじろく、花片はなびらにふっと乗って、ひらひらと空を舞って行く。……これが落ちたおおきな門で、はたして宗吉は拾われたのであった。

 電車が上り下りともほとんど同時に来た。
 宗吉は身動きもしなかった。
 と見ると、丸髷まるまげの女が、その緋縮緬ひぢりめんそばと寄って、いつか、肩ぬげつつ裏のすべった効性かいしょうのない羽織を、上から引合せてやりながら、
「さあ、来ました。」
「自動車ですか。」
 と目を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはったまま、緋縮緬の女はきょろんとしていた。

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